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fiend 第四章 後半

「はぁ…」
一人きりで歩く夜の帰り道。
吐息が真っ白に染まった。


fiend 第4章 後半

金属の取っ手は冷たくて、生徒会室の中も十分に冷えていた。
入るなりストーブをつけて、しばらく部屋が温まるまでストーブの前で暖を取る。
ようやく温まったところで書記のプレートが置かれた机に向かう。
「さて、仕事仕事っと。」
呟いて、数十枚の紙の束を机に並べた。



生徒会室の鍵を職員室に返すと、そのままコートを着て学校を出た。
外はすっかり暗くなっていた。
寒さのあまり、マフラーに顔をうずめる。
こつこつと静かな夜を一人で歩く。
足音が周りの静けさを更に引き立てて、一人を感じては、ひたすら歩く。
突然白い物が、ふわりと落ちてきた。
「…雪…。」
穏やかに降りかかる初雪に冬だなぁとしみじみ…。
家までまだだいぶ距離がある。
誰もいないアパートを目指して、もくもくと足を進める。
静かな静かな道を、無心で歩く。
途中にある廃屋が、いつにもまして不気味だった。
閑かな夜に穏やかな初雪と不気味な廃屋は、どこか美しく、しかし恐ろしく、ふいに足が止まる。
廃屋を眺めては感慨にふけった。
ふと、金属が地面に落ちたような音が、廃屋から聞こえてきた。
誰もいない、ただ一人の空間のはずだったその一帯に、他の何かがいるとは思えなかった。
こんな夜に、こんな廃屋に、人などいるはずがない。
不気味さが再来してきて、その場から立ち去ろうとするも、足はなぜか動かなかった。
不気味さと、他の何かが私を留める。
よく耳を澄ましてみると、金属のこすれ合う音や人の声、発砲音が本当に僅かだけれど、廃屋の奥の奥からうっすらと聞こえてくる。
間違いない。
誰かがいる。
ふらっと、おぼつかない足取りで一歩、また一歩と、廃屋へ足を進める。
なるべく音を立てないように、そっと中へ踏み込んだ。
さっきより明らかに大きなそれらが耳に入ってくる。
やはりここには誰かがいるのだ。
きっと一人ではない…。
すぐそばの階段の上から音が聞こえてくるからおそらく二階に…。
ごくりと唾を飲み、僅かに震える足で階段を上る。
上り切ろうとしたその瞬間。
本当に瞬間の出来事だった。
大きな何かが、目の前を横切った。
驚いて、少しばかりぼーっとしていたが、すぐさま我に返り、それを追って、つまずきながらも走り出した。

それは私がよく知った、何度も見てきた、生徒会副会長、水流静鬼だった。
「ふ…く…かい…ちょ…う…?」
声が震える。
水色の髪の毛と整った顔立ち。
いつもみていた制服姿とは違い、淡い黒のワンピースに、両手に握りしめている見慣れない…アニメや漫画にでてきそうな長い剣。
「うう…。」と唸る彼女に動揺は収まらない。
苦しそうにしながらも、片目をなんとか開けた副会長に必死に呼びかけた。
「副会長!副会長!大丈夫ですか?一体…一体何が…。」
彼女は何度か目をパチパチさせると「まき…ちゃん…?」と呻いた。
私の思考は今起きていることについていってはくれない。
また、事態も待つ気はないようで。
「静鬼!!!!!!!!!!!!!!!」
後ろからとんでもない勢いで赤髪の少女が駆けつける。
何度かみたことのある顔。
確か…名前は炎華姫鬼。
副会長と一緒にいるところをよく見る。
そしてそのすぐ後ろをもう一人、黄色の短髪。
彼も副会長といるところを頻繁に見かける。
名前は雷坂瑠鬼。
見慣れない服装、手にはそれぞれ見慣れるはずすらもない、凶器。
なんなんだ何をしているんだこの人たちは。
そして私を見るなり驚いた顔をするも、すぐに引き締め、副会長に駆け寄った。
「静鬼!?大丈夫か?」
「静鬼!!」
副会長は口を開く。
「だい…じょうぶだと…思う。それよりっ…まきちゃんが…!」
片手で炎華さんの肩を掴んだ。
そして雷坂さんと炎華さんは私を見つめる。
「っ…!…やらかしちまったな。植谷…だっけか?事情は…その、話せないっつーか…。」
「ねえ、どうしよう…まきちゃん…消えちゃうのかな…。」
「大丈夫だって…そんなみてないし…記憶とか消せれば…大丈夫かも…じゃん。」
「るーくん…記憶操作できるの?」
「いや、無理。」
「だめじゃねえか!」
ナイスツッコミ。
って、いやいやいやいや。
いや!
おかしいおかしいなにをしゃべってるんですかこの人たち!!
私消えるとかえ?え?
「ちょっと待ってくださいよなんのはなっ…!!!」
唐突に、頭に激痛がはしる。
まるで、頭に大量の何かが詰め込まれるみたいな…。
「まきちゃん!まきちゃん!!!」
遠くに副会長の声が聞こえる…。
あ、これ私死ぬ。





乱入者。
ルールでは第三者に知られた場合の処理は第三者の存在がこの世から消滅、及び原因のGAMEOVER。
私は原因ではないはずだから、彼女の前に駆け寄ってしまったあちら側三名…つまり敵全員がGAMEOVER。
なんて都合の良いことか。
私は彼女に気付かれないようにすればいいだけ。
ただ、彼女は気の毒ね。
まあどうせみんな死ぬんだし…。
小さな笑みがこぼれる。
案外はやく…いや、予定よりも遅いか。
しかし思わぬところで勝利が生まれた。
事の終わりをひっそりと見届けようとする。
書記、植谷真希。
仕事熱心で礼儀がなってたいい子だったわ。
今彼女は頭を抱え込んで唸っている。
静鬼は負傷した左足をおさえながら、姫鬼・瑠鬼と共に、彼女に必死で呼びかけている。



ああああああどうしようどうしようどうしよう。
巻き込んでしまった。
関係のない、ただの一般人を。
友人を。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうすればいいのかわからない。
このままじゃこのままじゃ真希ちゃんが消えてしまうそして空華ちゃんたちにも負け、この世界が消える。
消えてしまう。
全てが。
痛む左足を気にもとめず、流れる涙を拭うこともせず、混乱する頭で後悔に暮れる。
それどころか私のせいで姫鬼ちゃんもるーくんも消えてしまう。
GAMEOVER…そんなの死に決まってる。
わかってる。
死だ。
以外ない。
なすすべもなく、涙を流し続けるしかなかった。



頭が割れる。

先ほどから数十秒前には知るはずもなかったわけのわからないことが、まるで当たり前のように、世の常識とでもいうように、次々と頭に刷り込まれていく。
世界を守る?
名前に鬼が入る人?
ゲーム?
は?何を…こんなどこぞのテレビ番組にありがちなヒーローアニメの設定みたいなもん…でも…だったらこの人たちはこんな物騒なものを手にして、妙な服をまとって、何をしてるんだ。

突然に、頭の痛みが収まった。
引き換えに、私の目の前には、文字が浮かんでいた。
『参加しますか。』
こんな得体のしれないものに参加しますか?だって?いきなりなんなんだ本当に。
そして刷り込まれた情報を元に考える。

いや、こんなもの考えなくてももうわかっている。
私の名前。
「植谷真希」は、本来の名ではないらしい。
本当の名は…「植谷真鬼」
つまりこのふざけた“ゲーム”とやらの、正義のヒーローになる権利があるらしい。
どこからか、声が聞こえてきた。
ひどく冷たい、機械のような声。
「植谷真鬼。新たに、真名に鬼を宿す人物が現れました。よって、参加権を獲得。
ゲームに参加しますか?」
目前の副会長と、右隣の炎華さんと、左斜め後ろの雷坂さんが、驚いた顔で、私を見た。
「え…。」
と、副会長が声を漏らした。
なぜこんなとんでもないものに参加せねばならんのだ。
こんな危なっかしいことできるわけがない。
「まきちゃん…だめ…きちゃ…いけない…!」
副会長…。言われるまでもないです。
私はこんなものに参加なんて…。

『本当は一緒に仲良くお昼ご飯食べたりしたいし、馬鹿な話に花咲かせたり一緒に笑いながら帰ったり……』

揺らいだ。
副会長と、目が合う。
彼女の状態を冷静に見てみる。
僅かな切り傷がところどころ、彼女の綺麗な肌を傷つけている。
酷いのは左足。
明らかに折れている。
これでは、現時点で立つことは不可能だろう。
両側の炎華さんと雷坂さんは副会長を心配していたし…彼女達がこれをやったとは考えられない。
おそらく世界を壊す側の人間とやらがやったのだろう。
この左足を、彼女はどうする気なのだろう。
病院行きは確実だ。
治療費も馬鹿にならない。
こんなご家族にも迷惑がかかりそうなゲームとやらに、なぜ参加したのだ。
いや、それも今は知っている。
鬼だから。
ではなんだ。
私はなんだ。
好奇心でこんな廃屋に入り、実は私もこのふざけたゲームの参加権をもっていて、参加するわけないでしょうと、無関係だからと、「いいえ」と言おうと思った私は。
目の前にいる怪我人を放置して「それでは失礼しました。」と目を背けようとしている。
それの何が悪い。
そうだ。
悪くなんかない。
でもよく考えてご覧なさいよ真希。
私はこれに参加する資格があるのに、「ふざけるな、知ったことか」と彼女達に任せて逃げようとしている。
無関係?
本当に無関係なのか?
ああ無関係だ。
無関係なのだ。

ではなぜ私は
こんな無駄なことを考えているのだろうか。
いいえといえばいいのに。
断ればいいのに。

『今日も日々を無駄に浪費するんだろうな…って』

いつも思ってた。
人が怖い。
だから離れた。
けれどそんな彼らが羨ましかった。
わがままな。

『だけど、やっぱり怖いから。
そんなきっかけも訪れることはなく。』

きっかけが欲しかった?

『消えない切なさを胸に抱えて』

まさかこんなものに参加して彼女達と仲良くなるきっかけをもらおうとでも?

『出るはずもない涙を堪えて』

どうするんだそんな事をして。
もう諦めたんだろう?





でも、だったら。
それ以外にどうして私は言えるはずの「いいえ」を押しとどめているんだ。

「まき…ちゃん?」
不安げな貴方の声が、そんな心配するような声、もう何年聞かなかったかな。
貴方と"お友だち"になれたなら、どんなに嬉しいことだろう。
でもやっぱり…。


逃げるのか。
怖いから。
逃げるのか私は。
友達が、もう一度できるかも知れないのに。
でもこんなゲームなんて…参加してどうする。

「副会長…左足…それ、どうするんですか」
「え…これは…まあ…どうにかなるよ…そんなことよりま…きちゃん、早く…帰った方が…いい。」
そんなことより…だって。
すごいですね貴方は。

痛いでしょうそれ。
辛いでしょうそんなの。
こんなたかが生徒会の、たかが書記の、たかが私に、「そんなことより」なんて、なぜ言える。

「そんなことより…そんなことより?そんなことじゃないじゃないですか…病院行き決定ですよそれ。今すぐいかなきゃ行けないレベルですよ…。」

そうでしょう?

「私の左足なんて…どうに…でも…なるんだから…いいんだ…よまきちゃん。それよりも、まきちゃんは…いるべき…世界があるん…だから…そこにいるべき…なんだか…ら。ね?」

なんでそんな諭すような…。
私は子供じゃないんですから…。
怖いものこそあれど、でも、でもこんな私だって。

「ここは…貴方の世界なんですか」
「ここは、私の…世界だよ」
「私の世界は、酷く冷たい世界です」
「そんなこと…ないよ」
「そんなことあるんです。誰も振り向いてはくれない。気付いてはくれない。でも、そうしたのは全部私で。」
「そんな…こと…ないよ」
「怖がって拒絶した私に、近づいてくれる人なんていなくて当然で。でも、でも私…」
「そんなこと…ないよ」
「私の世界は、いつだって複雑で、いつだって恐ろしいんです。」
「そんなことないよ…まきちゃんが…思って…いるほど、そっちの世界は…酷いものじゃ…ない」
「もう、誰も私なんかにかまってくれなくて」
涙が溢れ出てくる。
とうに枯れたはずの涙が。

「ちょっと顔を…あげてごらん。世界はもっと……優しいから。」

眩しい貴方に。
腕を引かれた。

「…副会長…。」
「ふふ。ねえ…まきちゃん、思って…たん…だけどさ、副会長って…やめない?なんか…仰々…しいし。静…鬼って…よん…でよ。」
貴方の笑顔は本当に眩しい。
「友達…でしょ?」

ああ、こんなシチュエーション、この前テレビで見たなぁ…。
ありきたりなシチュエーション。
ありふれたシチュエーション。
だけど、だけど本当に嬉しくて。

「さあ、まきちゃん。もう…自分の世界…に…帰って。まきちゃんが…頑張…れる…ように、私達が…頑張るから。」
苦しそうな笑顔。
それでも眩しい。
思わず「はい」といってしまいそうな…。
でも、でもね、こんな他人行儀な、怖がりな私なんかに、明るく接して下さった、そんなことよりと気遣ってくれた、友達と呼んでくれた貴方の事を、
「貴方の事を助けるところから、私の人生…再チャレンジしてみようかなと…思うんです。」

静鬼が目を見開いた。
「まきちゃん…。」
「こんなアニメや漫画みたいなゲーム…私は思うんです。」
頭を回らせる。
「どうやらRPGなどにでてくる、いわゆる回復系の魔法のようなものが使える方はこの中にはいないようですね。ルールとしては苗字に関わる能力を与えられるらしいですから…推測としては炎華さんは火、雷坂さんは雷、水流だから副会長は水。わかりやすいですね。」
彼女達の顔を見回す。
「皆さん戦闘特化の方なのでしょうね。副会長が剣、炎華さんが銃、しかし一点変わって雷坂さんはステッキ。ステッキということは、あまり直接的な戦闘を行うようには思えません。雷の力を持つのだと仮定すると遠距離で雷を操ったりなさるのでは。」
瑠鬼がすげぇ…と漏らす。
「そして私の苗字が植谷。漢字をパッと見た時点では谷というよりは植の方が重要な様に見えてきます。植は植物の植。連想ゲームのようでこじつけらしいかもしれませんが、植物と言われると様々な能力を思い起こさせます。私が望んでいるのは…治癒。○○に聞く葉、といったものはいろんなところで頻繁に聞きます。能力というものが応用がきくものであれば、もしかしたらこの場にいない回復系の能力を、もしかしたら私なら、発揮できる可能性はありませんか。」
無理やりだし、確証はないことくらいわかってる。

「植谷。本気か。」
隣から少し低めの、凜とした声が届く。
炎華さんが、堅い表情で、私を見つめていた。
ごくりと、唾を飲む。
ゆっくりと口を開いた。
「こんな私に、友達って…いってくれたんです。友達って呼んでくれた副会長を…静鬼を、このまま放って背を向けて、何も知らなかったことにして、いつも通りの日常に戻る様な…そんな私になって、見てしまったあなた方の世界で、あなた方が傷つく姿を、某然と見ている様な私になったら…それこそ終わりなんじゃないかって…そう…思っちゃったんです。」
自然と、こんなお人よしみたいな私に、自嘲の笑みがこぼれる。
まだ私、全然いい人だったかもしれないな。
「多分、お前が思ってるより。こっちは痛いぞ。辛いぞ。今ならまだ知らなかったですむし、それを私は最低だとは思わない。」
真剣に、私のことを心配してくれているんだ。
私は無関係だからと、いってくれる。
「実際無関係だと、私も思ってました。でも、だけど。こんな私にだってできること、できるかも知れないこと。目の前にあるから、そこに進んでいくことは、信念ではないでしょうか。」
沈黙が重い。
それを破ったのは、思いもしない人物だった。

「そう、なら面倒だから殺すわ。貴方のこと結構気に入ってたんだけどね。」
聞き慣れた、この声は、まさか。
「かい…ちょう?」
振り返ったその時に彼女はもう、黒に、闇に、空気に溶け込んだ真っ黒と化し、こちらに向かってきていた。
赤髪が揺れる。
「悪いけど闇風、お前は大人しくそこで見物しといてくんねえか?」
回し蹴りが、空華の腹に、かすった。
一瞬後ろへ引き下がるも、真鬼を仕留めるために姫鬼をこえて、真鬼に切りかかろうとする。
しかし瑠鬼が、続いて阻止に移っていた。
「なんか感動シーンな…らしくてな。」
片手に力をこめると、ぶつぶつ呟く。
雷電。帯電。4つ。」
呟くと、手の中に直径僅か5cmほどの周りにぱちぱちと光が飛び散る球状の物体が4つ、握られていた。
それをすべて、空華にむかって投げつける。
「包囲、密着。」
ステッキを床につけ、先端でぐるっと弧を描き、そのまま円の真ん中へと、先端を引きずる。
「ーー落雷。」
同時に先端で床を小さく二度叩いた。
投げた球が中から裂け、雷が溢れ出る。
地球上にこの光景を見たことがある人間は、この場にいた数名のみだろう。
この間約1秒。
「植谷!!!!!!!!!!!!!」
姫鬼が叫ぶ。
本当に、この人たちは凄いのだ。
私は、ここに踏みいろうとしているのだ。
機械的な声が、タイミングを読んでいるかのように、再度真鬼へと問いかける。

「参加しますか。」

息を呑む。
「…ええ、もちろん。」
キッと、目の前の文字を睨みつけた。

「承諾を確認。能力設定に移動します。」
目の前の文字が次々と移り変わる。
「苗字から、以下のうち3つを能力として選ぶことが可能です。お選びください。」
縦に文字がずらりとならんだ。
「植物操作。地形操作。岩石操作。自然操作。治癒系統能力操作。なお、自然操作に関しては身心に影響を及ぼすデメリットがございます。」
「植物操作、地形操作、治癒系統能力操作。」
後ろで彼女を止めてくれているお二人に負担をかけないよう、即座に応える。
「植物操作、地形操作、治癒系統能力操作、確認。それでは、楽しいゲームを。」
同時に、着ていたはずの制服が、見慣れない緑色の服へと変じていた。
両手を見つめた。
頼りがいのない、二つの手のひら。
全てを跳ね除けて拒絶してきた手のひら。
入ってしまったのだ、彼女達の世界に。
静鬼を見据える。
「来ちゃったね…まきちゃん…。ようこそっていうのも…なんだかおかしいかな…?」
ただ、微笑みを返した。
確かに選択肢に治癒系統能力操作とあったはずだ。
これは絶対に、考えていたはずの回復系の能力。
脳の奥に、どれが何かすら、あらかじめ知っていたかのように幾つかの言葉がおかれていた。
静鬼の左足に、手をそっとかざした。
息を整えて、それを言う。
「…ヒール。」
折れていた骨が元の位置に戻ってゆく。
細かい切り傷がふさがる。
完全に治ったわけではない。
まだこの程度の力しか、私はもっていない。
それでも、すごい。
私…こんなことできる…。
「わ…すっごーい…治った…!」
「完治とはいきませんけど…。」
「ううん!大丈夫!すごく助かった…。まきちゃんありがとう。」
役に立った…私…役に立ったんだ…。
喜びが、全身を駆け抜ける。
「じゃ、ずらかろうか。」
にっと口角をあげる。
「いくぞ!瑠鬼!」
「あっ!おっ、おう!!」
急いで姫鬼と、それに続いて瑠鬼がUターンしてくる。
姫鬼は真鬼を、瑠鬼は静鬼を抱えて廃屋から脱した。
「流石に外に出たらもうこないわな。あいつらも。」
姫鬼が廃屋を見上げて、一泡吹かせてやったと、声を上げた。
「だーな。」
瑠鬼も鼻歌でも歌いそうな勢いで廃屋を見上げた。
ただ一人、静鬼が暗い表情で地面を見つめた。
真希はそんな彼女に声をかける。
「…静鬼?」
静鬼はしばらくして顔をあげた。
「その…ごめんねまきちゃん。私のせいでこんなことに巻き込んじゃって。」
申し訳なさそうに、真希の顔を見つめる。
「巻き込んだのは静鬼じゃないです。私が勝手に巻き込まれにいったんですよ。」
ふふ、と笑って、真希は返答した。
「正義のヒーローとか、責任重大なものやっちゃいましたけど、私は貴方のそばで、貴方を助けていきたいだけですから。」
純粋な心は、本当に残酷なこちらの世界で、あまりに小さな光だった。

fiend 第4章 終

あとがき
あのね、あのね、まきちゃんの能力って文章に表せば表すほど難しくなってく。なにこれ。
まきちゃん編難しいこれガチで。
もう文才おりてきてまじで。頼む。

fiend 第四章 前半

いいなぁと、嫉妬の眼差しが、向けている私ですら…イライラして。

fiend 第4章 前半

「真希ちゃーん帰ろー」
眩しいほどの笑顔でこちらに歩み寄ってくる彼女の名は水流静鬼。
生徒会という同じ組織で共に働き半年以上はたった。
季節はもう冬に変わり、寒い日が続く。
「すみません副会長…まだ生徒会の仕事が残ってて…。」
彼女は別に悪い人という印象はなかったし、どちらかと言えば好意的に思っているがなんとなく話ずらくて、あまり一緒にいたくない。
まあ生徒会の仕事が残っているのは本当で…。
「うーんそっかぁ…じゃあまた今度ねっばいばーい」

そう言って、廊下の向こうへ走っていった。
「あ、姫鬼ちゃん!かーえろー」
「ああ、今丁度巡回終わったし帰るか。」
「あれ?るーくんは?」
「…さあ?」
遠くでそんな会話を繰り広げる赤髪の少女と、水色の長い髪の毛を揺らす副会長を、いいなあ…なんて見つめてしまう。
あんな友人、小さい頃は…いたな。


私にも。

目を下に落として、振り切るように、彼女達と真逆の方向へ歩き出した。


いつも羨ましかった。
小さい頃は確かにいたはずなのに、時が経つにつれて友人というものが減っていった。
人と距離をおくようになって、私からみんな離れてしまった。
そうするようにしたのは勿論私だし、そうする事が目的だったわけだから…。
別にいいのだ。

別にいいのだ。

そんなのは強がりで。
本当はただ怖いだけ。
人間というものが、ただひたすらに。
人とコミュニケーションを取る事自体が怖い。
信じる事が。
自分が傷つく事を恐れたその日から、自分から離れた。
だけど、本当は一緒に仲良くお昼ご飯食べたりしたいし、馬鹿な話に花咲かせたり一緒に笑いながら帰ったり……
「したいんですよ…本当は。」
小さな声が、誰もいない廊下に僅かに響いた。

だけど、やっぱり怖いから。
そんなきっかけも訪れることはなく。
今日も日々を無駄に浪費するんだろうな…って、消えない切なさを胸に抱えて、出るはずもない涙を堪えて、生徒会室へ向かった。


to be continue...?

あの、ね。
実はあの、前半かいてたらね、あの、付け足す部分がでてきちゃって、急遽書いてた前半を後半に回してこのちょびっとのやつをね、投下したのね。
あの、がんばって早めに後半書くから。許して。

fiend 第三章 後半

「生徒会副会長就任決定おめでとー!」
別にクラッカーがなったりとかそういうわけではないが代わりに赤髪の友人から要らない歓声をいただきました。

とりあえずほとほとって感じで
「うう…ありがとう…。」

fiend 第三章 後半

さて、と。
とりあえず今日からさっそく生徒会のお仕事な訳ですが、今一番何が楽しみかって言うと生徒会室なのです。
いやいややらされた生徒会とはいえど、生徒会室ってあこがれ…。
こっ、これは全国の子供達の共通認識であり普通だよね!
そういうわけでてとてとてとっと生徒会室に向かっております。
結構校内は広い造りになっているので生徒会室とかちょっと遠かったりする。
ぬんぬんぬん…中みたいな早く。
なんかすっごい豪華なんだろうなぁ…。
て、ん?
生徒会室のドアの前で緑色をした短髪の女の子が立っていた。
生徒会室に用事かな?

とりあえずこのままでは私がはいれなさそうなので声をかける。
「こんにちは。」
にっこり優しく微笑むが女の子はびっくりしたみたいで
「えっあkがlkjsふぃn!?」
とかちょっと何語なのかわからないんだけど落ち着いて頂戴。
「はいはい、落ち着いて落ち着いて。ひっひっふーひっひっふー」
なだめてみる。
「ひっひっふー…ひっひっふー…。」
うん、本当にやってくれた。
可愛いなこの子。
「あ、えっと、こんにちは副会長。」
え、知り合いだっけ?
まあ普通全校生徒知ってるか。
「本日から生徒会書記を務めさせていただく事になりました。1年、植谷真希ともうします。」
し…しっかりした子だわっ恐ろしいっ。
「ああ、そっかそっか書記さんかぁ〜。私は副会長になった1年の水流静鬼です。よろしくね、真希ちゃん。」
…巨乳…だと。
この子は危険だわ。
巨乳って…巨乳って…羨ましいわけてほしい。
なんて、自己紹介をしていたらあらあら大変、みんな大好き空華さんが
「なにドアの前で突っ立てるのよ。邪魔だからはいんなさいよ。」
って、生徒会室からでてきました。
あっはー空華ちゃん今日もかーわいー。
「あっ空華ちゃーん。もう先にはいってたんだ?」
ちなみに空華ちゃんは生徒会会長になりました。
1年生なのに。
まあ私が言えた事ではありませんが。
「ふん…なれなれしくしないでくれる?」
あ、ツンデレお嬢様キャラっぽいね空華ちゃん!
「はあーい、いこ?真希ちゃん。」
とりあえずこのめっちゃかわいいものすごくかわいい巨乳少女を連れて生徒会室へれっつらごー!

中に入ると思ったより広くて、わくわくします、はい。
両端に長机がふたつで真ん中にしきりがあるから多分これは生徒会役員用のかな。
真ん中には両端の長机二つ分くらいのでっかい机がある。
話し合いのときに使うのかな。
真ん中の机の奥にあるのが両端の役員用の机のスペースよりも少し大きい1人用の席。
そこには会長、というプレートが置いてあった。
両端の席にも一つ一つ生徒会の役職のプレートが置いてあったからそこに座れってことだろうなって言うのはまあ私でも分かる。
私が席に着く前に真希ちゃんは書記の席に腰掛けた。
よくみると奥に障子らしいものがある。
ついでに物音が聞こえる。

………………。

…………………………………………………。

「おっちゃっだよーん!」
!?
だだだだれやつ!
肩あたりまである外はねの白髪と、つむじからぴょんと飛び出たアホ毛
頭にゴーグル?
胸ポケットにスパナ!?
この人…キャラ濃いぞ。
なぜかパーカーを腰に巻いて手にはお茶のはいった湯のみが5つのったお盆を持っている。
「はい、これお茶ね。ここ置いとくよー。」
といって、真ん中の机一番手前の椅子の前に湯のみを1つ置く。
続いて真希ちゃんのところにいって。
「はい、お茶。」
「あ、ありがとうございます。」
私の時はもっと凄い反応だったのに。
とか思ってたらすっごい勢いで後ろ振り向いて目まんまるにして
「djfはぐぁvん!?」
とかまたよくわからない言語を発している。
「はいはい落ち着いてねー。」
というかこの人さっき大声でおっちゃっだよーんとかいってたよ真希ちゃん。
「私2年庶務ね。よろしく。」
「あ、えっと、1年書記を務めさせていただきます。植谷真希です。よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げてお茶を受け取る姿がなんともかわいい。
「あの、お名前は?」
名前分かんないからここは聞くべきだよね!うんうん。
「ちっちっち。」
っていいながら人差し指をふられました。
「名前を聞く時はまず自分が名乗るってのが礼儀だろう1年副会長さん。」
変人臭やばーい。
まあそれもそうか。
「ご存知だとは思いますが、1年副会長水流静鬼ともうします。」
名乗っておこう。
「よろしい。私は2年庶務の直野冬夏。よろしくね。」
猫みたいな笑顔が印象的な二年生でした。

教室であった子が書記だったなんて…やりづらいわね。
なにかを奥に秘めている感じがして気味が悪い。

まあ、なんにせよ感情が移る前にさっさと終わらせないと。
じゃないと…。

会計は3年生の大人しめな男の子でした。
名前は田中太郎君。
まるで資料にでてくる名前の見本みたいですねはい。
ごめんなさい。

そんなこんなで、楽しそうな生徒会のはじまりはじまりーです。

姫鬼「おい、今日私でてないんだけど。」
瑠鬼「いや、お前一番最初にでたじゃんいいじゃん。俺とか触れられてすらないんだけど。」
空夜「おまえらはいいよな、俺なんて前回でもでてなかったんだぞ。空気だ空気。」
真希「まってくださいよwww」
姫鬼「なんだよ今日たくさんでてたやつ。」
空夜「出番のあったやつに何かをいう権利はない。」
真希「中学生編でさんざやりたい放題やってた貴方達にいわれたくはありません。」
瑠鬼「それはまあ…」
真希「なんですか?ちょっと自分の出番が減ったくらいでそれですか?私なんて今回が一番まともにだしていただけましたけど?」
姫鬼「あーいや、えっと。」
真希「やっとのことでちゃんと出演できた私に嫉妬だなんて醜いにも程がありますね。反吐が出ます。顔洗って出直してこいクズ共。」
姫鬼・瑠鬼・空夜「「「すいませんでした」」」


はい、ということで、見てくださった方々ありがとうございました。
真希ちゃんだしましたはい。
まだまだ続きます。
次回もよかったら見てくださると嬉しいです。
それではー
f:id:TIBIMIMI:20130713213305p:plain

fiend 第三章 前半

「ちょっまってってばー!」
水色の長い髪を揺らしながら、その少女は走ってきた。

「はやくしろってー」
少女のことはお構いなしにちょっと伸びた赤髪を後ろで二つに結ったツインテールの少女は言った。


「よろしくお願いします」と呟いて、校門に頭を下げる少女がいた。

fiend 第三章 前半

「ひめきぃぃぃいぃいぃうわぁぁっぁぁぁどうしようどうしよう!?どうする!?」
「…なにが」
クラスの組み分け表の前で静鬼は焦っていた。
「なにがってなにがもなにもクラス!別れちゃったよ!うわっぁぁあ姫鬼とわかれたぁぁっぁあ…ってるーくんもそっちのクラス!?私ひーとーりぃー!」
女子だなぁ…と心の中で呟きながら呆れた顔で相棒を見やる。
とはいったものの、色々面倒になることは真実なわけだが…。
そっちの意味で相談や作戦会議はいつもよりは多く出来ないだろう。
ま、なんとかなるか。
「だーいじょぶだって。別に対したことねえだろ。」
「いや、これは大問題だぞ姫鬼。」
深刻そうな顔をした瑠鬼が突然介入してくる。
「うわっ!るっるーくんいつからそこに!?」
「ひめきぃぃぃいい(裏声)あたりからだ。」
「最初からじゃねえか!で、なに深刻な顔してんだよ。」
「…いっても怒らないか?」
なにをもったいぶっているんだか…。
「怒らない怒らない。だから早く言え。」
イライラしたから笑顔の催促をする。
「うう…その…なんだ…」
「るーくん、いってごらん?」
戸惑う瑠鬼に優しく促す静鬼。
女子力…。
「静鬼が同じクラスじゃないんなら俺の生傷が耐えないに決まってるこれは非常事態だぁっぁぁぁっぁぁぁっぁぁ!」
その叫びを悲鳴に変えるために手が動く。
「どういう意味だ?どういう意味だ?え?お前それどういう意味?」
瑠鬼の腕を曲がらぬ方向へ思いっきり曲げていく私。
てめぇまじぶっ殺す。
「いててててててて痛い痛い!ギブ!ギブ!うぎゃあああああ」
「ちょっ姫鬼ちゃんそこらへんにしときなってー」
「こういうことだ」
キリッとした顔でなぁにぃがぁ
「こういうことだ、だざけんなくそがぁぁっぁぁっぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

私達は今日も平和な日々を過ごしております。

「楽しい…か。楽しいなんて…別にいらないんだけどね…。」
一人教室で呟く。
顔を哀しさと苦しみで歪めながら。


「あっても余計なのよね…別に。」
小さな声でぽつりぽつりと空っぽの教室に言葉を落とす。
一人だけの
独りだけの空間を。


何かが破った

ガラッ

ドアを開ける音にとっさに振り返る。
そこにいたのは緑の髪をした短髪の、小柄な女の子だった。
おそらく自分と同じ1年生なのだろう。
眼鏡をかけていて…無駄に巨乳であった。

「あ…えっと…もう、下校時間ですよね?帰らないんですか?」
ちょっと焦ったように言葉を紡ぐ緑の少女に少し笑いがこみ上げる。
私が黙ったままのなので次の言葉に戸惑う様はみていてとても面白かった。

「あ…その……あのー?」
冷や汗をかいてそうな顔で必死に呼びかけてくる。

「っく…ふふっ…あははっははは!」
堪えきれずに笑ってしまう。
案の定唐突に笑いだした私に驚いた様子の緑の少女は困った表情を浮かべている。

「ふふ…ははっ…ああ、ふふふ…ごめんなさいね。あんまり必死だったもので…あはは。」
久しぶりに笑ったかもしれない。
そしてなお困った表情がツボを押す。
「ちょっと忘れ物をしたものでね。今探してたの。でももう見つかったから帰らせてもらうわ。そういうあなたは?」
余裕の笑みを浮かべながら問いを与える。

「ああ、そうだったんですか。私も少し忘れ物をしたもので、取りに戻ったわけですが教室にまだ人がいたので、びっくりしていた所です。えっと、1年生ですよね?」
思ったよりしっかりした子で意外だ…。

「ええ、草加高等学校1年、闇風空華よ。あなたは?」
礼儀として名乗り、相手の名前もついでに聞いておく。
少し戸惑ったような顔を浮かべてから、少女は…いや、彼女はこう言った。


「植谷まき。同じく草加高等学校1年生です。よろしくお願いしますね。闇風さん。」
まき…静鬼といい瑠鬼といい姫鬼といい…名前に鬼がつくものは高確率で◯鬼というものだったため私の中で警戒心が蠢く。

「へえ…まきって、漢字でどうかくの?」
ここにきて敵が増えるなんてごめんよ。
面倒ったらありゃあしないわ…。
さりげなく、気づかれることなく質問する。

「真実の真に、希望の希で真希です。」
にこやかに答える。
恐らく大丈夫…でも普通の人というには何かが違う黒さが垣間見える…。

「それじゃあ私はこれで。」
去るべきだろう。

ベストだ…。

「あ」








「制服にゴミ、ついてますよ」

「生徒会副会長?」
皆様こんにちはこんばんはおはようございます水流静鬼です。
ただいまクラスごとの委員会役員と生徒会立候補者を決めております。
なぜか多数決で私選ばれました。
笑えません。

ええ、本当。

「私が…ですか?」
「水流さんしっかりしてるし…似合ってるかなぁって///」
なぜ頬を赤らめた出席番号13番丁度真後ろの席の瀬田さん。
「俺も水流さんにあってると思うよー」
なぜチャラそうな男子に押し付けられた感満載で立候補しなければならないのだかわからない。
「水流さん…お願いしていいかしら?」
いや、でも学校の上に立つのは悪くない。
色々いいかもしれない。



まあ、色々悩んだ挙句

「私でよければ。」
にこって効果音がお似合いの笑顔を作って見せた。

「姫鬼ちゃんは何に入ったの?」
放課後、二人で歩きながら5時間目に行った委員会役員の話に持っていってみる。
「ああ、生活指導。」
「生活指導?」
生活指導…ってなんだっけ。
え、指導?するの?
「生活指導ってんのは、要するに生徒の指導をするわけだよ。」
「そりゃわかるけど、でもなんでそれ?」
「ガラの悪い連中には実力行使ってのがあってな、『炎華さんとっても強いし運動もできるし炎華さんいいんじゃないかなっ!』とかほざく奴らに押し付けられた。」
うわーデジャヴを感じるわ。
「で、そういう静鬼は?」
「あー…色々あって生徒会副会長に立候補することになりました…。」
思い出すと病むわこれ。
「へーまたなんで。」
「まあ姫鬼ちゃんとおんなじような感じだよー押し付けられたも同然かなぁ。」
ため息をつきながら説明を省く。
「あーなんかわかるかも。まあ頑張れよ。」
笑いを堪えているのがびっしびっし伝わって心が痛いよ姫鬼ちゃん…。
「はぁーい…。」

Q瑠鬼くんは何に入ったんですか
A生活委員。
Q理由は?
A弱っている女子を保健室に運びつつ胸を堪能できるから。



fiend 第三章 前半 終

さて、とうとうかきたくてたまらなかった真希ちゃんが小説で少しながら出せたことに若干の感動を抱かざるを得ない私ですが、更新とてつもなく遅くなってすみません。
稚拙な文で文才の欠片もございませんが、次回もぜひみていただければ幸いです。
それでは(◎´▽`)ノシ

fiend side story -真希-

例えば私をいじめる同級生も

例えば私を妬むお姉ちゃんも

例えば私に期待を押し付ける両親も

例えば…例えばこんな世界が




消えてしまったなら

fiend side story -Maki-

「真希はやればできる子なんだから」って、いつも言われた。
その期待に応えようって、必死に勉強して、いい点とって。
「よくやったね。さすが真希。」って、そう褒められると思わずにやけちゃうくらい嬉しかった。

世にいう"ガリ勉"で、家は茶道で有名な家。
うちをつぐのは私だからーって、ちょっと上のお姉ちゃんは、私をねたんでる。
なんか学校にいくとみんなに無視されたり、馬鹿にされるし、家に帰るとお姉ちゃんがいじわるしてくる。

そんな私の生き甲斐は、やっぱりお母さんやお父さんに褒められること!
お母さんはお母さんって呼ぶと怒る。
お父さんもお父さんって呼ぶと怒るし…。
お母様、お父様、なーんて、大仰で嫌な呼び方を押し付けてくる。
それでも…そうやって呼び始めると「偉いね」って褒められるから…。


私はどうやら精神がとても弱いみたい。
学校で足を引っ掛けられた。
その後なんでもなかったみたいにたって、トイレにいって、声を殺して泣いた。
こんなことで真希は泣いた。
こんなことで真希は泣いたの。
ね?弱いでしょ?

お家に帰って、お姉ちゃんに肩をぶつけられた。

それだけで、真希は唇を噛み締めた。
そして自分の部屋で声を殺して泣いた。
こんなことで真希は泣いた。
こんなことで真希は泣いたの。

真希は作り笑いを覚えたよ。
鏡の前で頬をひっぱったり口角をあげて、最も自然な笑い方を一人で追求してみたら、出来のいい作り笑いが完成したの。

次に真希は敬語を覚えました。
こうすることで、私にとっての相手とのベストな距離感をつかむことに成功しました。
なんとも楽で、いい方法です。

次に私は、伊達メガネをかけてみました。
このクリアでシビアな世界が、ゲーム画面のように、私にはうつりました。
ああ、これはいい。そう思い、この日からこの伊達メガネを着用しはじめました。

そしたら、私をいじめてくる同級生も

私を妬むお姉様も

なんてことのない存在となりました。

しかし、予想外のことが起こりました。

私に期待を押し付ける両親の、その期待に応えた時、本当は「こうなって当然」という両親の思いをみてしまいました。

そうか、私は彼らにとっての当然のことを求められて、彼らにとっての当然をこなしただけなのだと。
そうすると、褒められても嬉しくなくなってしまいました。
「やればできる子なんだから」
私は、あなた達の"当然"に何十時間も何日間も費やしてやっと手が触れました。
テスト100点は"当然"なのでしょう?
みんなの知らないような食事のマナーも作法も"当然"で
娯楽の禁止も"当然"で
1位は"当然"…なのでしょう?

ですがお母様、お父様。
私はそれを今も苦しみもがきながらやっと手につかんでいます。

当然でしょうか。

「やればできる子なんだから」
なんて…私の何を知っているのでしょうか。

この両親から…家から…世界から逃れたい。
だから交渉し、こうして実家静岡からは少し遠い京都へはるばるきたわけで…。


「ここですか…草加高等学校」



深呼吸する。

伊達メガネの向こうのゲームのような世界と

適切な人間との距離感と

私なりの最も自然な作り笑いで

今日から…


「3年間、お世話になります。」


ぺこっ

fiend side story -静鬼-

「せんせーしずきちゃんがぁー」


違うの


だって







だって…

fiend side story -Shizuki-

昔から、喧嘩が大好きで、賭け事が大好きで、勝負が大好きだった。
負けず嫌いで男勝り、見かけは女の子っぽいのに中身が残念っていわれることは多くあって、でもそれなりに楽しいから気になんてしなかった。


「よーっし!さーどんどんかかっておいでー男子でもぜんっぜんいいんだからねー!」
机を挟んで並んだ椅子の片方に座り、右ひじを机につけ、腕相撲の体制をとる私は、つまるところ腕相撲の相手を待っているわけである。
この前は縄跳びで一番多かった人の勝ち…っていうゲームをやったんだけどもちろん私の勝ちなわけで…。
その前は鉄棒でできる技勝負でその前は給食のおかわり対決でその前はかけっこ、その前はどこまでティッシュを折れるかでその前は…という感じで要するになにかしら新しいゲームをしたい私なのだ。
で、今回は「よっしゃ、いいか、今日こそ俺が勝つ!」といった風にやってきた男子を腕相撲で負かしたいだけです。
「おーおーいいじゃないのー!私にはどうやったって勝てないっていうのを体に叩き込んであげるわよ!」ニヤニヤしながら、でてきた男子に生意気な口をきく。
「いったなこの野郎…後悔してもしらねーからなっ!」
威勢良く向かいの席に座る男子Aくんと手を握る。
「レディー…」
「「ゴー!!」」





「あっっはははははは!圧勝圧勝!」
男子完敗私の完全勝利。
まあ、予想通りの結果ではある。
「しずきちゃーん!ねえねえっお絵かきしようよー」
…お絵かき
「いいねー、やるやるー!」


めんどくさ



「私はやっぱり佐藤くんかなぁ…サッカー上手だしかっこいいしさぁ…」
佐藤ってこの前私がサッカーで負かした奴じゃん。
「わかるかもーでもでもっ私はやっぱり瀬田くんかなっ!優しいしかっこいいし…!」
どこが
「あっ!しずきは?」
…え
「え、私?私は別になぁ」
好きだよねぇ
恋バナ
「うっそー絶対好きな人いるでしょしずきっ」
「は?いないっていってんじゃんそんなの」
「ムキになってるのが怪しいよねーww」
うっざ…これだから女子って嫌いだよ。
「私ちょっとトイレ」
れっつトイレさらば恋バナ

「しずきってさ、なんかうちらとは違うっていうかさぁ」
「ああ、男好きだもんね。うちらといるより正直男子と遊んでる方が楽しそうだもんね」
「でも男子投げ飛ばして怪我させたのはぶっちゃけ引いた…」
「あーあれはありえない。なんか女子としてどうよwwww」

耳障りだな。
女子ってなんか蛇みたい。
しつこくってうざくって。
ねばねばしてぎとぎとして
そのくせ内容はどうでもよくってさ。
ばっかみたい


ほんと。





心のどこかでいやだった。

嫌いだった。
喧嘩が大好きな私も、負けず嫌いで男勝りな私も、勝負が大好きで賭け事が大好きな私も、外見の割に中身が残念な私も、全部。


気持ち悪い?
喜んで男子を投げ飛ばす私は

気持ち悪い?
ゲームに勝つことの異常なまでの執念は

気持ち悪い?
こんな私は





だったらもういいかなって


ならいいかなって



いっそのことこの感情を





「おーつっよーい!さっすが空華ちゃーん!」
渾身の力をこめて剣を振るう。
地を蹴る。

「ねえ空華ちゃん、楽しいね。」




「このゲーム」






楽しいや。







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静鬼ちゃんの過去編です
投稿おそくなりましたーみてないですねわかります。
中学生編はもうあんまりかかないで数人の過去編とかやって高校生編にいく予定ですっ