fiend side story -真希-

例えば私をいじめる同級生も

例えば私を妬むお姉ちゃんも

例えば私に期待を押し付ける両親も

例えば…例えばこんな世界が




消えてしまったなら

fiend side story -Maki-

「真希はやればできる子なんだから」って、いつも言われた。
その期待に応えようって、必死に勉強して、いい点とって。
「よくやったね。さすが真希。」って、そう褒められると思わずにやけちゃうくらい嬉しかった。

世にいう"ガリ勉"で、家は茶道で有名な家。
うちをつぐのは私だからーって、ちょっと上のお姉ちゃんは、私をねたんでる。
なんか学校にいくとみんなに無視されたり、馬鹿にされるし、家に帰るとお姉ちゃんがいじわるしてくる。

そんな私の生き甲斐は、やっぱりお母さんやお父さんに褒められること!
お母さんはお母さんって呼ぶと怒る。
お父さんもお父さんって呼ぶと怒るし…。
お母様、お父様、なーんて、大仰で嫌な呼び方を押し付けてくる。
それでも…そうやって呼び始めると「偉いね」って褒められるから…。


私はどうやら精神がとても弱いみたい。
学校で足を引っ掛けられた。
その後なんでもなかったみたいにたって、トイレにいって、声を殺して泣いた。
こんなことで真希は泣いた。
こんなことで真希は泣いたの。
ね?弱いでしょ?

お家に帰って、お姉ちゃんに肩をぶつけられた。

それだけで、真希は唇を噛み締めた。
そして自分の部屋で声を殺して泣いた。
こんなことで真希は泣いた。
こんなことで真希は泣いたの。

真希は作り笑いを覚えたよ。
鏡の前で頬をひっぱったり口角をあげて、最も自然な笑い方を一人で追求してみたら、出来のいい作り笑いが完成したの。

次に真希は敬語を覚えました。
こうすることで、私にとっての相手とのベストな距離感をつかむことに成功しました。
なんとも楽で、いい方法です。

次に私は、伊達メガネをかけてみました。
このクリアでシビアな世界が、ゲーム画面のように、私にはうつりました。
ああ、これはいい。そう思い、この日からこの伊達メガネを着用しはじめました。

そしたら、私をいじめてくる同級生も

私を妬むお姉様も

なんてことのない存在となりました。

しかし、予想外のことが起こりました。

私に期待を押し付ける両親の、その期待に応えた時、本当は「こうなって当然」という両親の思いをみてしまいました。

そうか、私は彼らにとっての当然のことを求められて、彼らにとっての当然をこなしただけなのだと。
そうすると、褒められても嬉しくなくなってしまいました。
「やればできる子なんだから」
私は、あなた達の"当然"に何十時間も何日間も費やしてやっと手が触れました。
テスト100点は"当然"なのでしょう?
みんなの知らないような食事のマナーも作法も"当然"で
娯楽の禁止も"当然"で
1位は"当然"…なのでしょう?

ですがお母様、お父様。
私はそれを今も苦しみもがきながらやっと手につかんでいます。

当然でしょうか。

「やればできる子なんだから」
なんて…私の何を知っているのでしょうか。

この両親から…家から…世界から逃れたい。
だから交渉し、こうして実家静岡からは少し遠い京都へはるばるきたわけで…。


「ここですか…草加高等学校」



深呼吸する。

伊達メガネの向こうのゲームのような世界と

適切な人間との距離感と

私なりの最も自然な作り笑いで

今日から…


「3年間、お世話になります。」


ぺこっ