fiend 第四章 後半

「はぁ…」
一人きりで歩く夜の帰り道。
吐息が真っ白に染まった。


fiend 第4章 後半

金属の取っ手は冷たくて、生徒会室の中も十分に冷えていた。
入るなりストーブをつけて、しばらく部屋が温まるまでストーブの前で暖を取る。
ようやく温まったところで書記のプレートが置かれた机に向かう。
「さて、仕事仕事っと。」
呟いて、数十枚の紙の束を机に並べた。



生徒会室の鍵を職員室に返すと、そのままコートを着て学校を出た。
外はすっかり暗くなっていた。
寒さのあまり、マフラーに顔をうずめる。
こつこつと静かな夜を一人で歩く。
足音が周りの静けさを更に引き立てて、一人を感じては、ひたすら歩く。
突然白い物が、ふわりと落ちてきた。
「…雪…。」
穏やかに降りかかる初雪に冬だなぁとしみじみ…。
家までまだだいぶ距離がある。
誰もいないアパートを目指して、もくもくと足を進める。
静かな静かな道を、無心で歩く。
途中にある廃屋が、いつにもまして不気味だった。
閑かな夜に穏やかな初雪と不気味な廃屋は、どこか美しく、しかし恐ろしく、ふいに足が止まる。
廃屋を眺めては感慨にふけった。
ふと、金属が地面に落ちたような音が、廃屋から聞こえてきた。
誰もいない、ただ一人の空間のはずだったその一帯に、他の何かがいるとは思えなかった。
こんな夜に、こんな廃屋に、人などいるはずがない。
不気味さが再来してきて、その場から立ち去ろうとするも、足はなぜか動かなかった。
不気味さと、他の何かが私を留める。
よく耳を澄ましてみると、金属のこすれ合う音や人の声、発砲音が本当に僅かだけれど、廃屋の奥の奥からうっすらと聞こえてくる。
間違いない。
誰かがいる。
ふらっと、おぼつかない足取りで一歩、また一歩と、廃屋へ足を進める。
なるべく音を立てないように、そっと中へ踏み込んだ。
さっきより明らかに大きなそれらが耳に入ってくる。
やはりここには誰かがいるのだ。
きっと一人ではない…。
すぐそばの階段の上から音が聞こえてくるからおそらく二階に…。
ごくりと唾を飲み、僅かに震える足で階段を上る。
上り切ろうとしたその瞬間。
本当に瞬間の出来事だった。
大きな何かが、目の前を横切った。
驚いて、少しばかりぼーっとしていたが、すぐさま我に返り、それを追って、つまずきながらも走り出した。

それは私がよく知った、何度も見てきた、生徒会副会長、水流静鬼だった。
「ふ…く…かい…ちょ…う…?」
声が震える。
水色の髪の毛と整った顔立ち。
いつもみていた制服姿とは違い、淡い黒のワンピースに、両手に握りしめている見慣れない…アニメや漫画にでてきそうな長い剣。
「うう…。」と唸る彼女に動揺は収まらない。
苦しそうにしながらも、片目をなんとか開けた副会長に必死に呼びかけた。
「副会長!副会長!大丈夫ですか?一体…一体何が…。」
彼女は何度か目をパチパチさせると「まき…ちゃん…?」と呻いた。
私の思考は今起きていることについていってはくれない。
また、事態も待つ気はないようで。
「静鬼!!!!!!!!!!!!!!!」
後ろからとんでもない勢いで赤髪の少女が駆けつける。
何度かみたことのある顔。
確か…名前は炎華姫鬼。
副会長と一緒にいるところをよく見る。
そしてそのすぐ後ろをもう一人、黄色の短髪。
彼も副会長といるところを頻繁に見かける。
名前は雷坂瑠鬼。
見慣れない服装、手にはそれぞれ見慣れるはずすらもない、凶器。
なんなんだ何をしているんだこの人たちは。
そして私を見るなり驚いた顔をするも、すぐに引き締め、副会長に駆け寄った。
「静鬼!?大丈夫か?」
「静鬼!!」
副会長は口を開く。
「だい…じょうぶだと…思う。それよりっ…まきちゃんが…!」
片手で炎華さんの肩を掴んだ。
そして雷坂さんと炎華さんは私を見つめる。
「っ…!…やらかしちまったな。植谷…だっけか?事情は…その、話せないっつーか…。」
「ねえ、どうしよう…まきちゃん…消えちゃうのかな…。」
「大丈夫だって…そんなみてないし…記憶とか消せれば…大丈夫かも…じゃん。」
「るーくん…記憶操作できるの?」
「いや、無理。」
「だめじゃねえか!」
ナイスツッコミ。
って、いやいやいやいや。
いや!
おかしいおかしいなにをしゃべってるんですかこの人たち!!
私消えるとかえ?え?
「ちょっと待ってくださいよなんのはなっ…!!!」
唐突に、頭に激痛がはしる。
まるで、頭に大量の何かが詰め込まれるみたいな…。
「まきちゃん!まきちゃん!!!」
遠くに副会長の声が聞こえる…。
あ、これ私死ぬ。





乱入者。
ルールでは第三者に知られた場合の処理は第三者の存在がこの世から消滅、及び原因のGAMEOVER。
私は原因ではないはずだから、彼女の前に駆け寄ってしまったあちら側三名…つまり敵全員がGAMEOVER。
なんて都合の良いことか。
私は彼女に気付かれないようにすればいいだけ。
ただ、彼女は気の毒ね。
まあどうせみんな死ぬんだし…。
小さな笑みがこぼれる。
案外はやく…いや、予定よりも遅いか。
しかし思わぬところで勝利が生まれた。
事の終わりをひっそりと見届けようとする。
書記、植谷真希。
仕事熱心で礼儀がなってたいい子だったわ。
今彼女は頭を抱え込んで唸っている。
静鬼は負傷した左足をおさえながら、姫鬼・瑠鬼と共に、彼女に必死で呼びかけている。



ああああああどうしようどうしようどうしよう。
巻き込んでしまった。
関係のない、ただの一般人を。
友人を。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうすればいいのかわからない。
このままじゃこのままじゃ真希ちゃんが消えてしまうそして空華ちゃんたちにも負け、この世界が消える。
消えてしまう。
全てが。
痛む左足を気にもとめず、流れる涙を拭うこともせず、混乱する頭で後悔に暮れる。
それどころか私のせいで姫鬼ちゃんもるーくんも消えてしまう。
GAMEOVER…そんなの死に決まってる。
わかってる。
死だ。
以外ない。
なすすべもなく、涙を流し続けるしかなかった。



頭が割れる。

先ほどから数十秒前には知るはずもなかったわけのわからないことが、まるで当たり前のように、世の常識とでもいうように、次々と頭に刷り込まれていく。
世界を守る?
名前に鬼が入る人?
ゲーム?
は?何を…こんなどこぞのテレビ番組にありがちなヒーローアニメの設定みたいなもん…でも…だったらこの人たちはこんな物騒なものを手にして、妙な服をまとって、何をしてるんだ。

突然に、頭の痛みが収まった。
引き換えに、私の目の前には、文字が浮かんでいた。
『参加しますか。』
こんな得体のしれないものに参加しますか?だって?いきなりなんなんだ本当に。
そして刷り込まれた情報を元に考える。

いや、こんなもの考えなくてももうわかっている。
私の名前。
「植谷真希」は、本来の名ではないらしい。
本当の名は…「植谷真鬼」
つまりこのふざけた“ゲーム”とやらの、正義のヒーローになる権利があるらしい。
どこからか、声が聞こえてきた。
ひどく冷たい、機械のような声。
「植谷真鬼。新たに、真名に鬼を宿す人物が現れました。よって、参加権を獲得。
ゲームに参加しますか?」
目前の副会長と、右隣の炎華さんと、左斜め後ろの雷坂さんが、驚いた顔で、私を見た。
「え…。」
と、副会長が声を漏らした。
なぜこんなとんでもないものに参加せねばならんのだ。
こんな危なっかしいことできるわけがない。
「まきちゃん…だめ…きちゃ…いけない…!」
副会長…。言われるまでもないです。
私はこんなものに参加なんて…。

『本当は一緒に仲良くお昼ご飯食べたりしたいし、馬鹿な話に花咲かせたり一緒に笑いながら帰ったり……』

揺らいだ。
副会長と、目が合う。
彼女の状態を冷静に見てみる。
僅かな切り傷がところどころ、彼女の綺麗な肌を傷つけている。
酷いのは左足。
明らかに折れている。
これでは、現時点で立つことは不可能だろう。
両側の炎華さんと雷坂さんは副会長を心配していたし…彼女達がこれをやったとは考えられない。
おそらく世界を壊す側の人間とやらがやったのだろう。
この左足を、彼女はどうする気なのだろう。
病院行きは確実だ。
治療費も馬鹿にならない。
こんなご家族にも迷惑がかかりそうなゲームとやらに、なぜ参加したのだ。
いや、それも今は知っている。
鬼だから。
ではなんだ。
私はなんだ。
好奇心でこんな廃屋に入り、実は私もこのふざけたゲームの参加権をもっていて、参加するわけないでしょうと、無関係だからと、「いいえ」と言おうと思った私は。
目の前にいる怪我人を放置して「それでは失礼しました。」と目を背けようとしている。
それの何が悪い。
そうだ。
悪くなんかない。
でもよく考えてご覧なさいよ真希。
私はこれに参加する資格があるのに、「ふざけるな、知ったことか」と彼女達に任せて逃げようとしている。
無関係?
本当に無関係なのか?
ああ無関係だ。
無関係なのだ。

ではなぜ私は
こんな無駄なことを考えているのだろうか。
いいえといえばいいのに。
断ればいいのに。

『今日も日々を無駄に浪費するんだろうな…って』

いつも思ってた。
人が怖い。
だから離れた。
けれどそんな彼らが羨ましかった。
わがままな。

『だけど、やっぱり怖いから。
そんなきっかけも訪れることはなく。』

きっかけが欲しかった?

『消えない切なさを胸に抱えて』

まさかこんなものに参加して彼女達と仲良くなるきっかけをもらおうとでも?

『出るはずもない涙を堪えて』

どうするんだそんな事をして。
もう諦めたんだろう?





でも、だったら。
それ以外にどうして私は言えるはずの「いいえ」を押しとどめているんだ。

「まき…ちゃん?」
不安げな貴方の声が、そんな心配するような声、もう何年聞かなかったかな。
貴方と"お友だち"になれたなら、どんなに嬉しいことだろう。
でもやっぱり…。


逃げるのか。
怖いから。
逃げるのか私は。
友達が、もう一度できるかも知れないのに。
でもこんなゲームなんて…参加してどうする。

「副会長…左足…それ、どうするんですか」
「え…これは…まあ…どうにかなるよ…そんなことよりま…きちゃん、早く…帰った方が…いい。」
そんなことより…だって。
すごいですね貴方は。

痛いでしょうそれ。
辛いでしょうそんなの。
こんなたかが生徒会の、たかが書記の、たかが私に、「そんなことより」なんて、なぜ言える。

「そんなことより…そんなことより?そんなことじゃないじゃないですか…病院行き決定ですよそれ。今すぐいかなきゃ行けないレベルですよ…。」

そうでしょう?

「私の左足なんて…どうに…でも…なるんだから…いいんだ…よまきちゃん。それよりも、まきちゃんは…いるべき…世界があるん…だから…そこにいるべき…なんだか…ら。ね?」

なんでそんな諭すような…。
私は子供じゃないんですから…。
怖いものこそあれど、でも、でもこんな私だって。

「ここは…貴方の世界なんですか」
「ここは、私の…世界だよ」
「私の世界は、酷く冷たい世界です」
「そんなこと…ないよ」
「そんなことあるんです。誰も振り向いてはくれない。気付いてはくれない。でも、そうしたのは全部私で。」
「そんな…こと…ないよ」
「怖がって拒絶した私に、近づいてくれる人なんていなくて当然で。でも、でも私…」
「そんなこと…ないよ」
「私の世界は、いつだって複雑で、いつだって恐ろしいんです。」
「そんなことないよ…まきちゃんが…思って…いるほど、そっちの世界は…酷いものじゃ…ない」
「もう、誰も私なんかにかまってくれなくて」
涙が溢れ出てくる。
とうに枯れたはずの涙が。

「ちょっと顔を…あげてごらん。世界はもっと……優しいから。」

眩しい貴方に。
腕を引かれた。

「…副会長…。」
「ふふ。ねえ…まきちゃん、思って…たん…だけどさ、副会長って…やめない?なんか…仰々…しいし。静…鬼って…よん…でよ。」
貴方の笑顔は本当に眩しい。
「友達…でしょ?」

ああ、こんなシチュエーション、この前テレビで見たなぁ…。
ありきたりなシチュエーション。
ありふれたシチュエーション。
だけど、だけど本当に嬉しくて。

「さあ、まきちゃん。もう…自分の世界…に…帰って。まきちゃんが…頑張…れる…ように、私達が…頑張るから。」
苦しそうな笑顔。
それでも眩しい。
思わず「はい」といってしまいそうな…。
でも、でもね、こんな他人行儀な、怖がりな私なんかに、明るく接して下さった、そんなことよりと気遣ってくれた、友達と呼んでくれた貴方の事を、
「貴方の事を助けるところから、私の人生…再チャレンジしてみようかなと…思うんです。」

静鬼が目を見開いた。
「まきちゃん…。」
「こんなアニメや漫画みたいなゲーム…私は思うんです。」
頭を回らせる。
「どうやらRPGなどにでてくる、いわゆる回復系の魔法のようなものが使える方はこの中にはいないようですね。ルールとしては苗字に関わる能力を与えられるらしいですから…推測としては炎華さんは火、雷坂さんは雷、水流だから副会長は水。わかりやすいですね。」
彼女達の顔を見回す。
「皆さん戦闘特化の方なのでしょうね。副会長が剣、炎華さんが銃、しかし一点変わって雷坂さんはステッキ。ステッキということは、あまり直接的な戦闘を行うようには思えません。雷の力を持つのだと仮定すると遠距離で雷を操ったりなさるのでは。」
瑠鬼がすげぇ…と漏らす。
「そして私の苗字が植谷。漢字をパッと見た時点では谷というよりは植の方が重要な様に見えてきます。植は植物の植。連想ゲームのようでこじつけらしいかもしれませんが、植物と言われると様々な能力を思い起こさせます。私が望んでいるのは…治癒。○○に聞く葉、といったものはいろんなところで頻繁に聞きます。能力というものが応用がきくものであれば、もしかしたらこの場にいない回復系の能力を、もしかしたら私なら、発揮できる可能性はありませんか。」
無理やりだし、確証はないことくらいわかってる。

「植谷。本気か。」
隣から少し低めの、凜とした声が届く。
炎華さんが、堅い表情で、私を見つめていた。
ごくりと、唾を飲む。
ゆっくりと口を開いた。
「こんな私に、友達って…いってくれたんです。友達って呼んでくれた副会長を…静鬼を、このまま放って背を向けて、何も知らなかったことにして、いつも通りの日常に戻る様な…そんな私になって、見てしまったあなた方の世界で、あなた方が傷つく姿を、某然と見ている様な私になったら…それこそ終わりなんじゃないかって…そう…思っちゃったんです。」
自然と、こんなお人よしみたいな私に、自嘲の笑みがこぼれる。
まだ私、全然いい人だったかもしれないな。
「多分、お前が思ってるより。こっちは痛いぞ。辛いぞ。今ならまだ知らなかったですむし、それを私は最低だとは思わない。」
真剣に、私のことを心配してくれているんだ。
私は無関係だからと、いってくれる。
「実際無関係だと、私も思ってました。でも、だけど。こんな私にだってできること、できるかも知れないこと。目の前にあるから、そこに進んでいくことは、信念ではないでしょうか。」
沈黙が重い。
それを破ったのは、思いもしない人物だった。

「そう、なら面倒だから殺すわ。貴方のこと結構気に入ってたんだけどね。」
聞き慣れた、この声は、まさか。
「かい…ちょう?」
振り返ったその時に彼女はもう、黒に、闇に、空気に溶け込んだ真っ黒と化し、こちらに向かってきていた。
赤髪が揺れる。
「悪いけど闇風、お前は大人しくそこで見物しといてくんねえか?」
回し蹴りが、空華の腹に、かすった。
一瞬後ろへ引き下がるも、真鬼を仕留めるために姫鬼をこえて、真鬼に切りかかろうとする。
しかし瑠鬼が、続いて阻止に移っていた。
「なんか感動シーンな…らしくてな。」
片手に力をこめると、ぶつぶつ呟く。
雷電。帯電。4つ。」
呟くと、手の中に直径僅か5cmほどの周りにぱちぱちと光が飛び散る球状の物体が4つ、握られていた。
それをすべて、空華にむかって投げつける。
「包囲、密着。」
ステッキを床につけ、先端でぐるっと弧を描き、そのまま円の真ん中へと、先端を引きずる。
「ーー落雷。」
同時に先端で床を小さく二度叩いた。
投げた球が中から裂け、雷が溢れ出る。
地球上にこの光景を見たことがある人間は、この場にいた数名のみだろう。
この間約1秒。
「植谷!!!!!!!!!!!!!」
姫鬼が叫ぶ。
本当に、この人たちは凄いのだ。
私は、ここに踏みいろうとしているのだ。
機械的な声が、タイミングを読んでいるかのように、再度真鬼へと問いかける。

「参加しますか。」

息を呑む。
「…ええ、もちろん。」
キッと、目の前の文字を睨みつけた。

「承諾を確認。能力設定に移動します。」
目の前の文字が次々と移り変わる。
「苗字から、以下のうち3つを能力として選ぶことが可能です。お選びください。」
縦に文字がずらりとならんだ。
「植物操作。地形操作。岩石操作。自然操作。治癒系統能力操作。なお、自然操作に関しては身心に影響を及ぼすデメリットがございます。」
「植物操作、地形操作、治癒系統能力操作。」
後ろで彼女を止めてくれているお二人に負担をかけないよう、即座に応える。
「植物操作、地形操作、治癒系統能力操作、確認。それでは、楽しいゲームを。」
同時に、着ていたはずの制服が、見慣れない緑色の服へと変じていた。
両手を見つめた。
頼りがいのない、二つの手のひら。
全てを跳ね除けて拒絶してきた手のひら。
入ってしまったのだ、彼女達の世界に。
静鬼を見据える。
「来ちゃったね…まきちゃん…。ようこそっていうのも…なんだかおかしいかな…?」
ただ、微笑みを返した。
確かに選択肢に治癒系統能力操作とあったはずだ。
これは絶対に、考えていたはずの回復系の能力。
脳の奥に、どれが何かすら、あらかじめ知っていたかのように幾つかの言葉がおかれていた。
静鬼の左足に、手をそっとかざした。
息を整えて、それを言う。
「…ヒール。」
折れていた骨が元の位置に戻ってゆく。
細かい切り傷がふさがる。
完全に治ったわけではない。
まだこの程度の力しか、私はもっていない。
それでも、すごい。
私…こんなことできる…。
「わ…すっごーい…治った…!」
「完治とはいきませんけど…。」
「ううん!大丈夫!すごく助かった…。まきちゃんありがとう。」
役に立った…私…役に立ったんだ…。
喜びが、全身を駆け抜ける。
「じゃ、ずらかろうか。」
にっと口角をあげる。
「いくぞ!瑠鬼!」
「あっ!おっ、おう!!」
急いで姫鬼と、それに続いて瑠鬼がUターンしてくる。
姫鬼は真鬼を、瑠鬼は静鬼を抱えて廃屋から脱した。
「流石に外に出たらもうこないわな。あいつらも。」
姫鬼が廃屋を見上げて、一泡吹かせてやったと、声を上げた。
「だーな。」
瑠鬼も鼻歌でも歌いそうな勢いで廃屋を見上げた。
ただ一人、静鬼が暗い表情で地面を見つめた。
真希はそんな彼女に声をかける。
「…静鬼?」
静鬼はしばらくして顔をあげた。
「その…ごめんねまきちゃん。私のせいでこんなことに巻き込んじゃって。」
申し訳なさそうに、真希の顔を見つめる。
「巻き込んだのは静鬼じゃないです。私が勝手に巻き込まれにいったんですよ。」
ふふ、と笑って、真希は返答した。
「正義のヒーローとか、責任重大なものやっちゃいましたけど、私は貴方のそばで、貴方を助けていきたいだけですから。」
純粋な心は、本当に残酷なこちらの世界で、あまりに小さな光だった。

fiend 第4章 終

あとがき
あのね、あのね、まきちゃんの能力って文章に表せば表すほど難しくなってく。なにこれ。
まきちゃん編難しいこれガチで。
もう文才おりてきてまじで。頼む。