fiend 第6章 前半

こんな

こんな気持ちに気づいちゃいけないんだ

でもきっとこの先私が取る行動なんかも


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fiend 第6章 前半

家からあまり遠くもないこぢんまりとしたカフェで、水色の彼女と、ごく日常的な日曜日を過ごしていた。
この前出された宿題がー…とか、つい最近できた雑貨店がー…とか。
外と違って、温かく心落ち着く店内。
頼んだ紅茶は、いつもの通りおいしかった。
心地よさが体を包む午後。
崩れたのは本当に唐突だった。
もとより彼女の話はコロコロと変わるばかりで、もう慣れてはいたけれど。
不意に頬を赤らめて、どこか、ここにない何かを見つめてこう言った。

「姫鬼ちゃんさ、恋ってしたことある?」
しかしまさか。
私、炎華姫鬼16歳が今までの人生で恋愛経験があるのかと、そう問われるとは思わなかった。
正直言えば、今までそんなことは一度もなかったわけで。
だけど今は少しだけ…。
「私ね、るーくんのこと…好きなの。」
私のよく知っている人物の名前が。
そっと、壊れないように抱きしめるみたいに囁かれる。
けれど驚いたりはしないし「ああ、やっぱりか」なんて納得してしまったあたり、ほぼ”公認”みたいな空気はあったかもしれない。
きっと彼女の言う”るーくん”だって、彼女のことが好きなんだろう。
そんなことぐらい、見ていればすぐに分かる。
お似合いな二人で、そこには”誰か”が入る隙間はない。
誰も入る隙間がない。
まったく、たらたらしてないでさっさとくっ付いてしまえばいいのに。
きっとそうしたら、そうしてくれたら…。
いや、何を考えているんだか。
自嘲の笑みをふっとこぼして、清々しい笑顔で言ってやる。
「いいんじゃない?お似合いだと思うよ。」
水色の彼女はぱっと顔を明るくさせ、興奮気味に食いついてくる。
「えっ本当!?そう思う!?ってやだもう恥ずかしい…。」
私なんかより、ずっとずっと女の子だなって。
こんなかわいい子だったら私も、私だって。
「絶対うまくいくと思うし、いっそ告白しちゃえば?」
「えっえええええええそっそそっ、そんな告白なんて…るーくんと…。」
「いいからいいから。うまくいくって。頑張れ~。」
冷めた紅茶を飲みながら、適当に会話を進める。
「もうっ姫鬼ちゃんからかってる?」
「からかってなんかないよ。あ、そろそろ用事あるからでなきゃ。んじゃ。」
「用事?そんなのあったの?」
「ああ、朝思い出した。悪いけど先に店でるわ。告白頑張ってな。」
あわただしく席を立ち、言うことを述べたら扉へと早歩き。
まだ少し、冷たい空気が頬を撫でた。






消えてなくなってしまえ。

「おはよー姫鬼ちゃん!」
今日も元気な水色は、待ち合わせに3分きっかり遅れてやってきた。
ひょっとしたら、待ち合わせ時刻を間違えてるのはこっちなんじゃないか…?
なんて、たまに思うレベルで、ぴったり3分遅れてくるものだからよくやるよまったく。
「おはよう静鬼。」
あきれた笑顔を落として、学校へと足を踏み出した。
「ねえねえ姫鬼ちゃん。」
「ん?何だ?」
「やっぱり告白とかちょっと恥ずかしいっていうか…どうしたらできるかなあ。」
困っているはずなのに嬉しそうな声。
うつむいているから顔は見れないけれど、きっと彼を思って笑みを零していることだろう。
はやくしろ。
「そりゃあもう、そこは恥ずかしさをぐっと抑えてバッと言えばいいんだよ。」
「なにそれ~擬音多いぞー!」
はやくしろ。
「大丈夫。絶対上手くいくから。」
いつも通りに笑えてるかな。
大丈夫だ、笑えてる。
「うん…ありがとう姫鬼ちゃん!」
そんな、嬉しそうに、幸せそうに、笑わないでくれ。
その笑顔を向けられていい私じゃ、なくなりそうなんだよ。
ああ、とっても、居心地が…。
「しーずーきーさあああああんっ!!!!!!!」
背後から隣の水色を呼ぶ大声が聞こえる。
「あ、空夜君。おはよう。」
「しずっ静鬼さんに挨拶を!返してもらっ!!!めっちゃうれしいですありがとうございます!!!!」
「うるさいよ空夜君。」
「はい!!!!!!!喜んで!!!!!!!!!」
突然始まる茶番みたいなやり取りに、かみ合わない会話に、ほっとした。
良かった。
余計なこと考えなくて済んだ。
そういえばこいつ、初めて戦った時から静鬼に一目惚れしたんだっけか。
静鬼に反応もらうたびに本当にうれしそうな顔して。
こんなに一方通行なのによくめげないよな。
こうも真っ直ぐだといっそ清々しい。
けど、邪魔だな。
静鬼には早く瑠鬼とくっついてほしいから、お前はちょっと邪魔なんだ。
まあ今だけはこの馬鹿に感謝しよう。
本当にありがとう。
「うるさいぞ闇風。ほら静鬼、早く行こう。」
「あ、そうだね。ばいばい空夜君。」
そう水色が言い終えるのと同時に、学校へと走り出した。
「えっちょっ静鬼さん!!!!!!????」


初めて好きな人ができたの。
太陽みたいに明るくて、温かくて、とっても優しいの。
一緒に話しているだけで楽しいの。
そんなあなたともっといっぱいいっぱい。
一緒にいたいって思うのは、普通のことだよね?
絶対上手くいくからって、応援してくれた赤色の友達がいて。
最近は私なんかのことを慕ってくれる、緑色のお友達もできたの。
これで黄色の貴方の傍に寄り添うことが、もしも出来たなら。
もしも叶ったなら。
ふふ、ちょっと幸せすぎるかな。
毎日がふわふわしてて、とってもとっても、居心地が良いの。
こんな日がいつまでも続けばいいな。
みんな大好き。
幸せすぎておかしくなりそう。
こんなに幸せでいいのかな。
ううん、私だけじゃなくて、きっとみんな同じだよね。
そうだ、今度みんなでお出かけしよう。
お揃いで何か買いたいな。
ああ…。
黄色の貴方の隣に。
はやく。
はやく。

何にも知らない顔して。
幸せな世界に生きて。
羨ましいよ。
こんなに、こんなに醜くてまっ黒くて、吐き気がするような世界に。
思わずお前をぶち込みたくなるくらい。
やめろ。
こんなこと考えたくなんかない。
綺麗な水色を、想像もできないような絶望に落とせたら。
やめてくれ。
そんなの。
そんなの考えたくなんかないのに。
壊れてしまえ。
苦しめばいいのに。
その笑顔を、こっちに向けないで。
何も考えたくない。
こんなのあんまりじゃないか。
だけど物語はこれを望んでる。
何で私なんだよ。
私を見て笑ってんだろ。
楽しいか、面白いか、滑稽だろ?
思い通りなんかに、絶対なりたくない。
綺麗な水色を、傷つけることだけは。
静鬼は絶対に傷つけないでみせる。


ああ、でも、だけど。



……………………………これも。

「俺は静鬼さんが好きだ。」
「知ってる。」
「だったら何で止めるんだよ。」
「知ってるから止めるんだろうが。」
賑やかな校内の、わずかな静けさに包まれた一角で、私はこいつを抑えてた。
「静鬼は瑠鬼が好きなの、お前は邪魔なの。はいわかる?」
水色をはやく黄色の隣におしやりたいんだ。
「そんなのお前がどうこういう事じゃねえだろ。俺は静鬼さんがあのキンキラ頭が好きでもいいの。静鬼さんがすーきーなーの!」
「キンキラ頭って…小学生みたいなネーミングセンスだな…。」
「そっそこは関係ないだろ!!」
「だいたい、お前敵だろ。敵が敵に恋してどうすんだよ。」
「それは……何とかなる!」
「ならない。」
「何とかするの!!!」
まったく、本当に小学生みたいな…。
「いいから諦めろよ。どうせ叶わないんだし。」
軽くあしらって、なおも諦めを促す。
やっと黙り込んだかと思い、彼の顔に目を落とし…。
「っ…!?」
鋭い視線が、私の心を貫く。
まるで、責め立てるみたいに。
やめろ、見るな。
その目で私を見るな。
「…なんで、そうまで静鬼さんと瑠鬼をくっつけたいんだよ。」
先ほどまで交わしていた会話とは、まるで違う。
言葉が鉛のように重い。
「そりゃあ…友達の恋を…応援してるからだろ…。」
痛む腹から、声を絞り出す。
そう、私は水色の恋を心から。
応援、してるんだ。
本当に、心から。
大切だから。
「違うだろ。」
痛い。
体が、心が、軋むように。
やめろ何も知らないくせに。
やめろ。
「違くなんかない!!!!!!私は!!!!私は、本当に…。」
「だってお前」
それ以上、言うな…。
「瑠鬼のこと、好きじゃん。」
違う、違うんだ、知らない。
そんなこと知らない。
何も聞こえない。
「好きなんかじゃ…。」
「そんなに辛いなら、こっちにくれば。俺は静鬼さんと、お前はあのキンキラ頭と。」
やめてくれよ…そんな言葉聞きたくなんかない。
「それでハッピーエンド、だろ。」
気づいたら走り出してた。
あの場から、無性に逃げたくて。
知らない、見えない、聞こえない。
気づかない。

息を整えて、そっと教室に入る。
水色と、緑色が、黄色を囲んで楽しそうに話している。
いつも通りの光景。
「つまりなるほど。正解はエレベストだな!」
「るーくん、それを言うならエベレストだよ!」
「そしてこの問いの正解はアンデス山脈です。」
「はああああ!???!?!?!?」
ああ、そっか。
瑠鬼はそろそろ地理の再試か。
相変わらず瑠鬼は馬鹿だなあ。
楽しそうだな。
仲良いな。
ああ…いつものことか。
今更か。
「あ、姫鬼!」
なんだかなあ…。
あーなんか頭いてえなあ。
「ひーめーきー?」
なんか…あれ?
瑠鬼が2人に見えるような…。
「姫鬼ー!姫鬼―???」
瑠鬼の声か。
ああ、なんか…真っ暗。
「姫鬼!?姫鬼!!!!!!!!」

温かい。
ふわふわしたものに包まれている。
疲れ切った心を、癒してくれるみたいに。
…え?
目の前には真っ白な天井。
ベッドに横たわる自分。
ここは…?
私は一体何をして…。
「お、目覚めたか!」
聞きなれた声が、隣から聞こえてきた。
「…瑠鬼?」
なにがなんだかまったく…。
「お前、教室戻ってきたと思ったらいきなりぶっ倒れちまってよ、急いで保健室に運んだんだよ。」
倒れたって…?
そういえば空夜と話してて…そっか、逃げ出して…教室に戻ったら瑠鬼が静鬼と真鬼と話をしてて…。
それでいきなり意識が遠のいて…。
情けないな。
「…そうか。瑠鬼が運んでくれたのか?」
「ああ、まあな。」
「…重かっただろ。ありがと。」
笑いがこぼれる。
「別にそんな重くもなかったぜ。」
お世辞いえるんだな。
瑠鬼のくせに。
なんだか、とても温かい。
心が安らぐ。
「瑠鬼のくせにお世辞なんか言ってんじゃねえよ。ばーか。」
「別にお世辞じゃねえよ。あ、あれじゃねえかな。軽い代わりに胸がな…。」
「それ以上言ったらあらぬ方向に関節曲げるぞ。」
「うわあ怖い怖いごめんなさい姫鬼さーん。」
「ったく、これだから瑠鬼は。」
本当に、こいつと話してると思わず笑っちゃうんだから。
これだから私はこいつのことが…。
「…瑠鬼、再試あんじゃねえの。さっさといけよ。」
違う。
勘違いするな。
この笑顔は私のもんじゃない。
「え、あ、ああああああああやっべ、忘れてた。ありがとな姫鬼!」
「おう。さっさと行って来い。」
こいつは私のものにはならない。
「じゃ、お大事に。無理すんなよ姫鬼!」
やだ。
やだ、待って。
いつの間にか制服の裾を掴んでた。
「?どうした、姫鬼?」
「え、あっ。」
言われて気づいた。
何をしてるんだ私は。
すぐに手を放して、笑顔を繕って。
「いや、ゴミついてたから、とっただけ。」
笑顔がひきつる。
気づかないで。
「そっか…?なんか、まだ顔色悪いぞ?」
触らないで。
「何でもない」
こっちに来ないで。
「何でもないから…早くいけよ。」
「いや、でも」
優しくしないで。
「いいから!!!!!!!!」
声が、白い部屋に響き渡った。
「はやく、いけって。」
できそこないの笑顔を向ける。
「お前やっぱおかし…」
言いかけた時だった。
勢いよく扉が開いた。
「るーくん?再試始まっちゃうよ~!!」
恐ろしいぐらいのタイミングの良さで、水色がやってきた。
「あっ姫鬼ちゃん起きたんだ!よかったぁ…いきなり倒れるからびっくりしちゃったよ。」
「ああ、ごめんな心配かけて。あとちょっと寝たら全回復って感じ。それより瑠鬼早く再試いけよ。」
「え、あ、えっ。」
「留年するぞー。」
勢いよくまくしたてる。
「そうだよ。はい行く行くー!」
静鬼が瑠鬼の腕を掴んで、ずるずると引きずっていく。
そう、それでいい。
「姫鬼ちゃんお大事に!」
「ああ。」
そうやって私の前から持って行け。
どっか、目の届かないところで、二人っきりで。



to be continue.....?

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あとがき
だいぶ更新遅れましたどうも申し訳ないです。
書いてるの楽しすぎて姫鬼ちゃんが心の中でまぢゃみ。。。なシーンを大量に書いてしまうという事案が発生(´_ゝ`)
声を大にして言っていないfiendの大きな秘密、頭の隅で考えながら読んでいただけたら幸いです。

ちびみみ

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