fiend 第6章 中編

「私…私ね、るーくんのこと…」



fiend 第6章 中編

砂埃が目を眩ませる。
今日はいつにも増して気分が乗らない。
そのせいか、両手に握った拳銃もずっと重く感じる。
空華や空夜と戦っている時って…こんなに気怠かったかな。
暗闇の中、冷えた空気を裂いて走る。
時折後ろから、鋭い鎌がやってくるけれど。
跳んだり、屈んだりするだけで避けられる、こんなの大したことない。
でも私は、どうして今、こんな事をしているんだろう。
この行動に何の意味があるんだろう。
この争いに何の意味があるんだろう。
しばらく考えていると、一つ思い出した。
そう、世界を救うため。
世界を救うために、私は今こんなことをしているのだ。
じゃあ、どうして私は世界を救いたいんだろう。
救ってどうなるんだろう。
誰かが私に頼んだか。
いいや、そんな事ない。
私はただ、大好きな友達と過ごす楽しい時間を守りたいだけ。
ただそれだけで…。
さっきまでせわしなく動いていた足が、不意に止まった。
大好きな友達。
誰だっけ。
大好きな、友達。
あ、そうだ、水色の、とても綺麗な水色の。

消えてしまえばいいのに。

…今、何を考えた?
大好きな友達を、彼女の事を、何と言った?
自分の思考に戸惑っていた時だった。
後ろから、聞きなれた緑の声が聞こえた。
「静鬼!!!」
振り返ると、水色の彼女が地に横たわっていた。
緑色の少女が、急いで治療を始める。
私も行かなくちゃ…。
「しず…」
彼女の名前を口ずさみ、駆け寄ろうとしたその瞬間。
ほぼ同時に、私の肩に何かがぶつかった。
「静鬼っ!!!!!!」
彼は、私の、私が、大好きな。
ずっとずっと、心の奥で、恋い焦がれてきた…黄色の。
眩しい黄色の男の子。
彼が、私の肩にぶつかっておきながらも、なりふり構わず水色の彼女のその名を叫び、走っていく。
踏み出した足は止まっていた。
開いた口は塞がらなかった。
そっか。
なんだ、やっぱりそうじゃないか。
やっぱり、やっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱりやっぱり。
私の恋は、叶わなくて。
黄色の彼は、水色の彼女を。
わかってたはずなのに、頬を冷たい雫が伝っていく。
こんな世界なら。
こんな、世界なら。
「…守る必要なんて、どこにもないじゃん。」
誰にも聞こえないくらい小さな声で、そう呟いた。
やっと、自分が解放されたような気がする。
言いたいこと全部飲み込んで、伝えたい気持ち全部押し殺して。
そんな、窮屈な私の世界を叩き割ってやった。
そう思うとなんだか面白く思えてきて、笑いが零れだす。
私が守りたいものはとっくに壊れていたんだと、理解してしまった。
肩が震える。
ああ、きっと今の私は滑稽なんだろう。
そうなんだろう。
越えまいと決めていたその一線をいとも容易く飛び越えた私を、上で眺めて笑っている奴がいる。
全部全部思い通り。
でも、それでももう戻れない。
一度壊してしまえばそれは簡単に崩れた。
胸の内に残るのは恨みとか、憎しみとか、そんな嫌になるほどまっ黒い感情だけで。
自分がいかに醜い生き物なのかがよく分かる。
「ひ…め……ちゃ…」
聞きなれた耳障りな声。
起き上がらないでくれ。
そこで、ずっと寝ていればいいのに。
私を呼ぶな。
その声で、その顔で、私のことを。
「ひめ…き…ちゃ…」
虫唾が走る。
「うるさい!!!!!!!!」
とめどなく溢れる。
「たくさんの人に愛されて、こんな場所に身を投じていてもなお、そんなにも多くの幸せに囲まれて。」


「そんなに…」
止まらない、止められない。
「そんなにいっぱい持ってるなら…」
いいや、止める必要なんてどこにもない。

「その幸せ一個くらい、私に分けてくれよ…。」
顔がゆがむ。
今私は笑っているのか。
そうか。
それはとても、



「姫鬼ちゃん…。」












愉快なことだ。


大好きなともだち。
大好きなあの子。
ずっとずっと一緒に、いつまでも。
あなたがいたから、今の私がいる。
あなたが支えてくれたから、いっぱい頑張れた。
燃えるように赤く、凛々しく美しい。
そんなあなたと共に、いつまでも走っていられたら。
それはとても…
「うるさい!!!!!!!!」
彼女が、そんな彼女が。
「たくさんの人に愛されて、こんな場所に身を投じていてもなお、そんなにも多くの幸せに囲まれて。」
何を言っているの。
だってそれは、あなたがいたからこそ、あなたがいたからこその。
「そんなにいっぱい持ってるなら…」
この幸せは、この、しあわせは…。
「その幸せ一個くらい、私に分けてくれよ…。」
違う、違う違う違う…あなたがいたから今ここに私がいる。
あなたがいたから私は幸せなの。
あなたに何か不快な思いをさせてしまったの?
何が悪かったの?
言ってくれないと分からないよ。
何を謝ればいいの?
何をあげればいいの?
どうしてそんなに、泣いているの…。


なんとなく分かっていた。
彼を見る彼女の目は、少なからず彼に熱を注いでいたことを。
そしてそれを、表に出さぬようにと抑えていたことも。
私には何もできなかった。
生まれてこの方、一度として恋というものをせずに生きてきた。
愛を知らずに生きてきた。
もう一人の彼女が、彼とは所謂相思相愛である事は誰の目からも一目瞭然。
確かに、あの美しい赤色が哀れだとは思っていた。
それでも、それが彼女の選んだ道なのであれば、それは私がどうこう言うようなことではない。
事が落ち着くまで、私は黙って見守っていればいい。
全ては時が解決してくれる。
彼女の心の傷も、時が経てば癒えるだろう

そう、思っていたのに。

人間は機械ではない。
自分の気持ちに嘘をつくことが、どれほど難しいことなのか。
私はそれを知っていた。
辛く、苦しい。
逃げ場があるなら誰もがそこへ駆け込むに決まっている。
でも彼女に逃げ場なんてなかった。
後ろには何もなかった。
だからずっと、抱えてきたんだ。
今の今まで。
あの人は強い人だから。
いいや違う。
人は皆弱い生き物なのだ。
例えば、窮地に追い込まれた彼女の後ろに、突如として逃げ道が現れたならば…。
それは確実に。

このゲームのルールは、実の所他チームへ移ることが可能である。
最も、条件さえそろえばの話だが。





to be continue...?
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お久しぶりもお久しぶりです。
待っていた方には本当に申し訳ないほどお待たせしました。
正直今回でこの話は終わらせようと思っていたものの無理でした。
中編にしたはいいものの、次回「後編」とか言って終わらせられるのかどうか自信のほどが…。
時間を見つけて合間合間に続きを書くので気長に待っていてくれたら嬉しいです。
お粗末様でした。
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