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fiend 第6章 後編 -下-

今日は筆が進む。

ハッピーエンドが似合うだろうか、それともバッドエンドで終わらせた方が良いだろうか?

まだまだ先の結末に思いを巡らせ、今日も物語を紡いでいく。

私だけの


fiend 第6章 後編 -下—

「そこにいて、連れてくるわ。」
辿り着いたのは、どこにでもありそうな平凡な一軒家だった。
少し汚れた表札には”闇風”と、そう書かれている。
家主の彼女は黒い髪を靡かせて、ドアの奥へと消えていった。
心臓の音だけが、やけにうるさい。
正直、この状況下で自分に出来ることとは一体何なのか、雷坂瑠鬼はてんで思いつかなかった。
どうして姫鬼が怒ったのか、あんなにも寂しそうな顔で泣いたのか。
どうして静鬼が咽び泣いたのか、真鬼と何について話していたのかさえよく分かっていなかった。
ただ、彼女たちの間で何かかしらの複雑な感情のやりとりがあったのだと。
そういう事しか理解できていなかった。
鈍く重苦しい雰囲気に、自分の居場所が上手く見つけられない。
今日という日は戸惑ってばかりである。
だけど、だからと言って「俺はこれで」等と席を外していいわけもなく。
こうして、何をしていいのかもわからずに立ち尽くし、ハラハラと彼女たちを見守る事しかできないのだ。
むしろ、それをしなくてはならないような気もする。
それをする事こそが自分にできるただ一つの役割であり、同時に果たすべき役目であるのだと、確証はないがそう思った。
己の無力さについてしっかり理解したところで、ガチャリと音がする。
先ほど屋内へ消えた彼女は何も言わずにただドアを開け、冷たい視線だけをこちらに寄越した。
まるで「後は勝手にやっていろ。」とでも言うかのように。
空夜と姫鬼を外に出し、黙って扉に寄り掛かった。
沈黙の中、最初に口を開いたのは静鬼だった。
「場所、移動しない?」
空夜の後ろで、ただ下を向いている姫鬼は考え事をしているのか、はたまた何も考えていないのか。
無言、その一つだった。
何を思ったのか、静鬼の言葉に答えたのは空夜だった。
「そうですね!じゃあ、とりあえずいつもの所行きましょうか!何するにもとりあえずあそこですよね。」
この空気の中で出せるような声じゃねえだろ。
ついそう口走りそうになる程、こいつだけが元気だった。
元気だったというよりも、そういう声を出すべきだと判断したのだろう。
誰も彼に言葉を返さないまま、”いつもの場所”へ向かって歩き出した。


どうして追いかけてくるのだろう。
いや、考えてみればそうなる事も予測はできた。
できたがそんな事を考えられるほどの余裕もなく、ただ虚無感とばかり相対していた。
帰ってきた空華に「お客様よ。表へ出て。」と、そう告げられてようやくその考えに行きついた。
そうだ、そういう奴らだ。
私に何と声をかけるのだろう。
ごめんなさい、と謝るのだろうか。
はたまた何もわからないという顔で見当違いの説得をしだすのか。
帰って来て等と言われたら、私は何と答えるだろう。
そこに戻って、私が得られるものとは一体何だ。
ついぞ想い人の隣に立てなかった惨めさと、それを延々と考え込む己の惨めさと、眩しい笑顔を妬み続けるどうしようもない心の惨めさと。
惨め、惨めだ。
そんな惨めな人生に一体何の価値があるだろう。
誰よりも、自分自身に腹が立っている。
外に出ても、顔さえ見られなかった。
誰かが、何か言った気がした。
どうしようもなく、ぐちゃぐちゃな問題文に出ない答えを延々と探し続けていた。
何を考えているのかも分からない。
自分は何について悩み、頭を回転させているのだろうか。
「そうですね!じゃあ、とりあえずいつもの所行きましょうか!何するにもとりあえずあそこですよね。」
この声ははっきり聞こえた。
誰の…そうだ、空夜だ。
あそことはどこだろう。
いつもの所。
そうか、そうだ。
あの綺麗で優しい友人に、先刻怒声を投げつけたあの場所だ。
そうか、そこへ戻るのか。
みんなが進むから、もう何も考えずにただついて行こうと思った。
数歩歩くと、また声が聞こえた。
「俺は、どんなに辛くたってこれだけは中途半端に終わらせていい問題だとは思わない。ちゃんと話し合うなり何なりして、その先でやっぱり俺たちの所に居たいって言うんだったら、俺は歓迎するよ。」
私だけに向けられたセリフだ。
そう思った。
よく分からないけれど、きっととても優しい言葉だと思った。
それでも、今は何も考えずに下だけを見て、機械的に足を動かしたいと思った。


————気づけば、目の前に綺麗な水色が立っていた。
目が眩むほど、綺麗な水色だった。
余りに綺麗で、見たくなどなかった。
見れば苛立ちが。
憎しみが。
妬みが。
悲しみが。
苦しみが。
喉の奥からせり上がってくるから。

綺麗な水色が、その口を開いた。



”いつもの場所”につくと、気を利かせたのか、私と姫鬼ちゃんを置いて他の皆はそっと遠ざかった。
言いたいことはたくさんある。
だけど、いっぱいいっぱいで、上手くまとめられない。
なんて言えばいいだろう。
姫鬼ちゃんに、今私が言えることってなんだろう。
今私ができることって何だろう。
一際大きく息を吸って、思い切り吐き出した。
そうして浮かんだ選択肢を、迷わず選び取る。
「姫鬼ちゃん。」
右手に力を込めた。
手慣れたしぐさで、いつも使っている剣を作り出す。
ひんやりとした冷たい空気が、手に、身体に伝わる。
「ごめんなさいって謝っても、どうしようもないことは分かってる。だけど言わせて、ごめんなさい。」
言っても仕方ないかもしれない、けれど言うべきだと思った。
作ったばかりの剣の柄をぎゅっと握りしめて、前へ掲げる。
見せつけるみたいに。
「いろいろ考えてたんだけど、言葉じゃ上手く言えなくて…。だから”これ”でどう?」
俯いていた彼女はその言葉を耳にして、ようやく顔をあげた。
私の言いたいことを理解してくれたようで、何とも言えない苦い顔で声をあげた。
「…本気で言ってるの?別にいいけど、手加減とかできねえよ。」
心臓が、鼓動が早くなる。
より強く、柄を握りしめた。
「手加減なら、私だってしないよ。だから、私が勝ったらもう一度…。」
躊躇いだった。
私がこんなこと言っていいのかな。
言ってもいいのかな。
「もう一度…。」
声が弱まる。
何よ、ここまで来て怖気づくっていうの?
しっかりしなさいよ静鬼。
息を吸って。
「もう一度、一緒に歩こう!!!!私の隣で、一緒に歩いて、欲しいの…わがままかもしれないけど…!」
正直自分が何を言っているのか、言った端からすべて忘れてしまってよくわからない。
よくわからないけど、これが私の精一杯だ。
幼馴染を、いつも隣にいた大切な友達を、目頭が熱くなるのも無視してじっと見つめた。
少しだけ、目を見開いたように見えた。
しばらくして、また俯いて、今度は、顔に腕をこすりつけてて。
鼻をすすりながら、太ももの拳銃を引き抜いた。
よくわからないけど、残弾を確認するみたいな仕草を取ってから、くるりと回して二丁の拳銃を握りしめた。
「もしも負けたら、な。」
そう歪に笑うと、乾いた空に銃声が響き渡った。


笑える。
笑えるとか、もうそういう次元じゃない気がする。
よりにもよって、隣で歩けだって?
人の気持ちも知らないで勝手な事ばっかり。
ずっと昔、そんなこいつの事が、大切でたまらなかった気がする。
守らなくちゃって、もがいてた気がする。
顔が熱い。
走って、走って、撃って、避けて、走って、跳んで、撃って、走って、走って。
疲れる、息が苦しい。
だけど走るたびに、撃つたびに、跳ぶたびに、心が躍った。
消えてしまいたいと、切に願った数分前が夢のようだった。
ただただ、勝ちたいと、目の前の綺麗な水色に勝ちたいと。
それだけが足を動かした。
今ばかりはそれ以外、何もなかった。
惨めな気持ちとか、どうしようもない苦しさとか、綺麗さっぱり薄れてて、ただ目の前の水色に勝つことだけ。
ああ、なんだかんだ言って好きなんだ。
心の鬼が笑っているのが分かる。
これこそ求めていたものなんだと。
お世辞にも綺麗とは言えないけれど、これこそが己が本性なのだと語りかけてくる。
野性的で本能的な部分で、今の状況を楽しんでいる自分がいる。
もっと速く、もっと強く。
硝煙の匂いが嫌いじゃなかった。
響く金属音が嫌いじゃなかった。
相手の力んだ時の息遣いとか、乱れた呼吸を感じるのが嫌いじゃなかった。
いつまでも続けられたらと思うほどに。
水色の笑顔が見える。
きっと彼女も同じなのだろう。
心の鬼が言っているはずだ、楽しいだろうと。
だって同じなんだから。
彼女も、私も、同じ部類の人間なんだから。



音を立てて、彼女の真横の床に思い切り剣を突き立てた。
馬乗りになって、ようやく、ようやく捕まえたと、そういう笑みが零れた。
「はあ…はあ…、私の…勝ちだ…ね。」
途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
赤色も、限界みたいにただ酸素を求めて息を吸っていた。
二人、息が整ってきたところで、再び声をかけた。
「ねえ、姫鬼ちゃん。私ね、本当はどこかで分かってたんだ。それでも、傷つきたくなくて、気づかないふりしてた。最低だと思う。応援してくれてるって、そう思い込み続けて、ずっと姫鬼ちゃんの想い踏みにじってたんだ。最低だよね。だけど、だけど信じてほしい。姫鬼ちゃんのこと、世界で一番大好き。誰よりも素敵な人だよ。私の、私の大好きなお友達なんだ。ずっと傍にいてくれた。私の為に色んなことしてくれた。何発殴られたって良いよ、だけど、だけどそれでも、最後には私の傍にいてほしい。姫鬼ちゃんだから、傍に、隣に、いてほしいんだよ…。」
自分が嫌で仕方なくて、途中から涙が止まらなかった。
目の前にいる大好きな友人の顔が上手く見えなくなるほど、涙が溢れて止まらなかった。
最低な事しか言えない、最低な自分が大嫌いだ。
どんな顔をしているだろう。
私の大好きな赤色は、どんな顔で私を見ているのだろう。
なんと言われても、罵りだって受け止める覚悟はあった。
それでも怖くてたまらない。
突然、胸元を掴まれて、頭に衝撃が走る。
それが頭突きだと理解するのに、数秒を要した。
「い、いたい…え?え?」
いや、もちろん殴られてもいいとは言ったが突然頭突きされるなんて思ってもみなかった。
予想外も予想外で間抜けな声が漏れてしまった。
「違えよ…違えんだよ。私が、私が弱かっただけだ。」
頭突きをくれた本人が口を開く。
声は震えていた。
「怖かったんだ。分かってたから、砕けるの覚悟で当たったりできなかった。私が、こんな気持ちちゃんと閉じ込めてりゃ何も起こらずに済むと思った。だけど、やっぱりどうしようもなくて、結局こんな形で爆発しちまって。」
次第に嗚咽が混じっていく。
「お前の事傷つけたくなかったんだ。大切だから、守りたいと思ってた。なのに、弱くて、結局、傷つけて。駄目だなぁ…こんなんじゃ駄目だなぁ…。」
手で、目を覆っているのが分かった。
一生懸命、息を整えて、絞り出すように言った。
「もう一回、お前の隣に立てるかな…立ってもいいのかな。」
落ち着きかけていた熱が、勢いよく燃え上がった。
目頭が、熱くて熱くて仕方がない。
ぼろぼろと際限なく涙が零れる。
枯れた声で、精一杯言葉を返す。
「いい、いいよ。一緒にいたい。隣にいたい。隣にいてほしい。お願いだよ。もう一度一緒に、一緒に頑張ろうよ。頑張りたいよ…。」
彼女の上で、思わずうずくまって泣いてしまう。
二人の泣き声だけが響いた。
今まで溜めてきた行き場のなかった感情を消化するみたいに、ひたすらに泣きじゃくった。



涙が収まった頃には、すっかり目が腫れていた。
数時間前に聞こえた無機質な声が、またもや脳に響いた。
「陣営選択が可能です。殲滅陣営にとどまる場合は"はい"、守備陣営へ移行する場合は"いいえ"とお答えください。」
静かに、わずかな緊張感をもって回答を呟く。
「…いいえ。」
「プレイヤー名、炎華姫鬼。殲滅陣営から守備陣営に移行しました。」
勝手に爆発して、半ば強引に引き戻されて、なんだったんだろうこの数時間は…と。
そう思ってしまうほど元の場所に戻る手順はあっけない。
少し離れた所に、瑠鬼と真鬼を見つけた。
「静鬼…ちょっと瑠鬼借りるな。」
そう告げて、瑠鬼の元へ歩き出した。
真鬼が、心なしか不安げな顔で、私に話しかける。
「あの…姫鬼。黙ってみている事しかできなくて、私。…私からも謝らせてください。ごめんなさい。」
真面目な彼女らしい言葉だと、そう思った。
フッと笑って、頭を軽く撫でた。
「心配かけてごめんな…いいんだ、お前は何も悪くないさ。」
私の顔を泣きそうな目で見つめて、今度はこう言った。
「…おかえりなさい。おかえりなさい、姫鬼。」
そう言われれば、今度はこっちの涙腺が刺激されてしまう。
先ほど十分すぎるほど泣いたばかりだというのに、参った。
「…ただいま。」
そのやり取りを横で見ていた瑠鬼が、言いにくそうに口を開く。
「あ、あの…姫鬼。」
きっとこいつだけが何もわかっていないんだろうな。
瑠鬼の手をぐっと掴む。
「話があるんだ。ここじゃない所で、少し付き合ってくれ。」
瑠鬼が「あ、ああ」と言う前にその手を引いて、この場所から少し離れた場所へ移るために歩を進めた。


あの場から離れたのは良いが、今一度自分の状況を考えてみれば酷いものだった。
「ああ…今すっげえ目腫れてる…不細工だ…。」
思わずそう呟いてしまう。
今からすることを考えれば、できればもう少し綺麗な顔で挑みたかったものだ。
結果はわかっていても、どうしてもそう思ってしまう。
後ろにいる瑠鬼が何か言おうとしているのだと察して思わず静止した。
「待て、何も言うな。その、いいか、ちゃんと言う。ちゃんと言うから。待っててくれ。」
私が何を言い出そうとしているのか全くもって予想がついていないであろう瑠鬼は、きょとんとした顔でとりあえず頷いた。
人生でこんな事をするのはこれが初めてだ。
何度も深く息を吸っては吐き出した。
心臓がうるさくてうるさくて仕方ない。
言わなくては、言わなくてはと思い、ぐっと手を握りしめた。
そしてようやく。
「ずっと………好きだったんだ!そう、その、恋愛的な意味で。お前の事が、好きだったんだ。」
恥ずかしくて仕方ない。
顔が真っ赤になっているのがはっきりわかる。
恥ずかしいのももちろんだが、それ以上にどんな言葉が返ってくるのか、すごく怖い。
早まる鼓動を嫌でも感じる。
こいつの顔なんて見れるはずもなく、地面だけが目の前にある。
早く何か言えと、沈黙に耐え切れずそう思ってしまう自分もいる。
ああ、だけど怖い。
振られることはわかっている。
振られるその瞬間がたまらなく怖い。
はやく、はやくとどめを刺してほしい。
随分と時間が経ったように感じる。
ようやく、瑠鬼が言葉を返してくれた。
「そっ……かぁ……おう…そっか…。あ、あり…がとう。」
なんだそのたどたどしい言葉は…余計に緊張が高まるからやめろ…。
「おう、その、すごく嬉しい…本当に。でも、あの、うん。俺は姫鬼の…その、気持ちには応えられない…ごめん。」
わかってた。
わかってたさ。
だけど、こう実際に言われるとやっぱり。
「あっはははは!うん、分かってるよ。ありがとう。帰ろう!色々ごめんな。明日からはいつも通りになるからさ、うん。…あんまり気にすんなよ。」
瑠鬼を軽く叩いて、そう言った。
駄目だ、また泣きそうだ。
零れそうな涙を必死に食い止める。
そんな私を知ってか知らずか、瑠鬼は、私の両肩をぐっと掴んだ。
掴んで、今まで見たことないくらい真剣にこう言った。
「俺、静鬼の事絶対に幸せにするから。約束する。」
やっぱり無理そうだ。
涙って止めようと思って止められるものでもないな。
「なんだそれ…。告白してきたやつにいう事かよ…。ああ、しろよ、絶対にしろよ。幸せにしろ。静鬼のこと、泣かすんじゃねえぞ。」
力強い答えが返ってきた。

「ああ。」







その後、帰ろうとしている空夜を見つけて駆け寄った。
「あの、ありがとな。本当に短い間だったけど、めちゃくちゃ世話になった。ごめんな、私やっぱりあっちに戻るわ。」
空夜は笑ってこう言った。
「別にいいよ。お前がいなくたって全然問題ねえし。戻ったこと、後悔したって知らねえぞ。」
心底、こいつはアホみたいに優しい人間なんだと理解した。
敵であることが悲しくなるほど。



to be continue....?
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あとがき
あの、本当に、更新が遅くて、申し訳ないんですけれども、これでやっと6章は終わりです。
まだまだ先は長いんですけど、できるだけ早くすべてを出力しきれるよう頑張ります。
出力しなくちゃ出力しなくちゃと思って焦って書いたので急いでる文になってる気がします。
もしかしたら今度なおすかもしれなくもなくもないです。
お粗末様でした。